【執念】【魔女】【透明人間】
文字数 1,531文字
課題 魔性の男を主人公にする
もし【透明人間】になれたら何をするかという話題は、誰しも一度くらいは聞いたことがあるだろう。男であれば女湯に忍び込むなどというのが定番だ。
俺はそんな話題を聞くたびに浅はかな奴らだなと、思わずため息が漏れる。
透明人間なんて不便なことはあっても役に立つことなどないと断言できる。なぜなら、……
俺、生まれながらに透明人間だからな。
もし透明のまま外出するなら、全裸に素足でないといけない。身につけた物まで透明になるわけじゃないからな。雨の日は傘もさせず輪郭が浮かび上がるし、冬は寒い。素足で歩くのは色々刺さって痛い上に、汚れで足の裏が浮かび上がってしまう。
人混み厳禁。信号待ちしてる時も背後に気をつけてないと後からぶつかられる。一度それで車道に押し出され、危うく車に撥ねられるところだった。
そんなわけで、俺は外に出る時は露出部にコーンシーラーを塗りつける。本来女性が使うコスメ。concealとは隠すという意味だ、女という生き物はこれでシミとか隠してることを棚に上げて男には隠し事をしないでと勝手なことを言う。世界広しといえど浮かび上がらせる目的でコーンシーラーを使っているやつなど俺くらいだろう。
こんな俺だが、夢がある。それは何も特別なものではない。
女を抱きたい。
とは言え、こんな体の俺には簡単なことではない。俺はこの夢を実現させようとコンパの誘いには二つ返事で応じてきた。もともとの顔立ちがいいのか、メイクの腕前がいいのかわからないが、女を惹きつけるタイプのようだ。
だが男女の関係になるには顔だけでは難しい。俺は必死に自分磨きした。その【執念】が実って今俺は憧れのセリフを彼女に言う。
「先にシャワー浴びてこいよ」
長い、なかなか出てこない。シャワー後に入念なメイクという名を借りた大工事が施工されているに違いなかった。俺はメイクにかける時間から、彼女の素顔を逆算しようと無意識に思考を働かせてしまうが、この際素顔などどうでもいい。
「お待たせ」
彼女がでてきた。俺は速攻でシャワーを浴びる。家では入浴後はそのまま全身すっぴんだが、今日は全身コーンシーラーだ。大量に浴室に持ち込み、絶対開けるなよと鶴の恩返しよろしく彼女に釘を刺す。
タオルで水気を拭き取り、コーンシーラーを塗るが残った水分でうまく乗らない。慌ててドライヤーを全身に浴びる。
熱い、熱い。
あまり乾かない上に汗出てきた。あまり時間をかけると怪しまれる。俺はとりあえずもう一度タオルで全身を拭き、仕上がりは妥協して全身にコーンシーラーを塗りつける。
「ねぇ、まだー?」
部屋から彼女の声が聞こえる。
「ああ、もう出るよ」
ムラがあるがしょうがない。俺は彼女のもとに向かう。
「あれ?」
異変に気付いたのか彼女が不思議そうな声をだす。
やばい、気付かれる前に事におよばないとと思った俺は彼女を抱き寄せ照明を暗くした。
そのまま彼女をお姫様抱っこしてベッドへと向かう。彼女は素直に身を委ね何とか気を逸らす事に成功したようだ。
それにしても重い、こいつ何キロあるんだ。迂闊だった、普段ぽっこりお腹のシルエットを曖昧にしたい女子御用達のゆるふわファッションを好んでいるところで気づくべきだった。
だがそんなことは些細なことだ。ベッドはもうすぐ。腕がぷるぷるしてきたけどもう少しで夢が叶う頑張れ俺。その時だった。
グキッ
【魔女】の一撃。いわゆるギックリ腰だ。俺はたまらず彼女を床に落としてしまった。
「いたーい、ちょっと何やってんのよ! もー。男のくせに力なさすぎじゃない? あたし帰る!」
お前が重すぎんだよと俺は心の中で叫びながら、彼女の去った部屋で一人うずくまった。
もし【透明人間】になれたら何をするかという話題は、誰しも一度くらいは聞いたことがあるだろう。男であれば女湯に忍び込むなどというのが定番だ。
俺はそんな話題を聞くたびに浅はかな奴らだなと、思わずため息が漏れる。
透明人間なんて不便なことはあっても役に立つことなどないと断言できる。なぜなら、……
俺、生まれながらに透明人間だからな。
もし透明のまま外出するなら、全裸に素足でないといけない。身につけた物まで透明になるわけじゃないからな。雨の日は傘もさせず輪郭が浮かび上がるし、冬は寒い。素足で歩くのは色々刺さって痛い上に、汚れで足の裏が浮かび上がってしまう。
人混み厳禁。信号待ちしてる時も背後に気をつけてないと後からぶつかられる。一度それで車道に押し出され、危うく車に撥ねられるところだった。
そんなわけで、俺は外に出る時は露出部にコーンシーラーを塗りつける。本来女性が使うコスメ。concealとは隠すという意味だ、女という生き物はこれでシミとか隠してることを棚に上げて男には隠し事をしないでと勝手なことを言う。世界広しといえど浮かび上がらせる目的でコーンシーラーを使っているやつなど俺くらいだろう。
こんな俺だが、夢がある。それは何も特別なものではない。
女を抱きたい。
とは言え、こんな体の俺には簡単なことではない。俺はこの夢を実現させようとコンパの誘いには二つ返事で応じてきた。もともとの顔立ちがいいのか、メイクの腕前がいいのかわからないが、女を惹きつけるタイプのようだ。
だが男女の関係になるには顔だけでは難しい。俺は必死に自分磨きした。その【執念】が実って今俺は憧れのセリフを彼女に言う。
「先にシャワー浴びてこいよ」
長い、なかなか出てこない。シャワー後に入念なメイクという名を借りた大工事が施工されているに違いなかった。俺はメイクにかける時間から、彼女の素顔を逆算しようと無意識に思考を働かせてしまうが、この際素顔などどうでもいい。
「お待たせ」
彼女がでてきた。俺は速攻でシャワーを浴びる。家では入浴後はそのまま全身すっぴんだが、今日は全身コーンシーラーだ。大量に浴室に持ち込み、絶対開けるなよと鶴の恩返しよろしく彼女に釘を刺す。
タオルで水気を拭き取り、コーンシーラーを塗るが残った水分でうまく乗らない。慌ててドライヤーを全身に浴びる。
熱い、熱い。
あまり乾かない上に汗出てきた。あまり時間をかけると怪しまれる。俺はとりあえずもう一度タオルで全身を拭き、仕上がりは妥協して全身にコーンシーラーを塗りつける。
「ねぇ、まだー?」
部屋から彼女の声が聞こえる。
「ああ、もう出るよ」
ムラがあるがしょうがない。俺は彼女のもとに向かう。
「あれ?」
異変に気付いたのか彼女が不思議そうな声をだす。
やばい、気付かれる前に事におよばないとと思った俺は彼女を抱き寄せ照明を暗くした。
そのまま彼女をお姫様抱っこしてベッドへと向かう。彼女は素直に身を委ね何とか気を逸らす事に成功したようだ。
それにしても重い、こいつ何キロあるんだ。迂闊だった、普段ぽっこりお腹のシルエットを曖昧にしたい女子御用達のゆるふわファッションを好んでいるところで気づくべきだった。
だがそんなことは些細なことだ。ベッドはもうすぐ。腕がぷるぷるしてきたけどもう少しで夢が叶う頑張れ俺。その時だった。
グキッ
【魔女】の一撃。いわゆるギックリ腰だ。俺はたまらず彼女を床に落としてしまった。
「いたーい、ちょっと何やってんのよ! もー。男のくせに力なさすぎじゃない? あたし帰る!」
お前が重すぎんだよと俺は心の中で叫びながら、彼女の去った部屋で一人うずくまった。