【恋文】【転生】【保存】
文字数 1,641文字
課題 哀愁のある話にする。
【as different as day and night】
コンビニのバイトを初めて三か月。少しでも稼ごうと夜勤のシフトにしたけども、慣れない昼夜逆転生活で日が昇る頃には立っているのもままならない。時計を見て終業まであと1時間かと溜息をつく。
「あの、すいません。これ払い込みで」
「あ、はい、ただいま」
お客さんは二十代くらいの女性。大きな黒縁メガネに髪を一つにまとめ、どちらかというと地味なタイプだけど香水の香りが品よく漂う。
僕は女性がセルフレジで支払いをしている間に払い込み用紙にハンコを押す。
僕はその女性の名前が“今泉真希”であることを払い込み用紙から知った。
「ありがとうございました。こちら控えになります」
「はい」女性は控えをしまうとお店を出て行った。
「おい、慎二。お前さっきの女をジロジロ見てただろ。あんな地味子がタイプなのか?」
「そんなわけないだろ」バイト仲間の光一から茶化されて僕は咄嗟に否定する。
だけどその通りなんだ。僕は真希さんに惹かれてる。とりわけああいう感じの女性が好みというわけじゃないはずなんだけど。
その後も真希さんはちょくちょく来店した。何回目だっただろうか、僕は思い切って声をかけた。
「早いんですね」
「え、ええ、ちょっと仕事場が遠くて」真希さんは意表をつかれたようにはにかみながら答えた。
「1252円です」
真希さんは支払いを終えて商品を受け取る。
「いってらっしゃい」
真希さんは微妙な笑顔を見せて軽く会釈し店を後にした。
真希さんが来ない日は、こっそり撮ってスマホに保存した真希さんの写真を眺めて過ごした。
「慎二、それあの時言ってたお客さんだろ? お前やっぱりホれてんのか?」
背後に光一がいることに気づかずうっかり見られてしまった。
「いいだろ別に」
「照れんなって。いいじゃん告っちゃえよ」
「できるわけないだろ、連絡先知らないし店内だし」
「そこは恋文だろ」
「恋文っていつの時代だよ。ラブレターっていってくれよせめて」
「ラブレターって響きも昭和っぽいだろ? いっそ恋文って言った方が振り切っててよくね?」
「光一のこだわりはよくわからないな」
そうはいいつつも僕は光一のアドバイスに従って真希さんへの想いを綴った。
「あの、すいませんコレ読んでください。迷惑だったら破り捨てていいんで」僕は意を決して真希さんに手紙を渡す。
真希さんは一瞬戸惑ったけど手紙を受けとり、微笑みを見せる。
「いってらっしゃい」
そんな真希さんを僕はいつもの挨拶で送り出した。
「脈ありじゃね?」光一が茶化す。
「わかんないよ。あ、もう上がる時間だ。早く帰って寝ないと今晩きついぞ」
手紙に連絡先書いといたけど返事は来なかった。気になってロクに眠れなかった。あくびが止まらない。
「玉砕か」光一がしみじみ言う。
「ほっとけよ」
「おい、見ろよ。いい女」
見ると夜のお店で働く感じの派手な身なりの女性がレジに向かってきた。
女性は買い物カゴを置いて財布を取り出す。
「980円です」
「今日は言ってくれないのね」支払いを済ませた女性がにっこり微笑んで、封筒を置いた。
「行ってきます」女性はくるりと背を向けて去っていった。
あの香水のかおり、まさか。
僕は封筒を開けて、手紙を読んだ。
真希さんは、いわゆるキャバ嬢。いつもは仕事が終わってから目立たない格好に着替えて帰り道に立ち寄っていたのだ。かけるべき言葉は”いってらっしゃい”ではなく、”お疲れ様”だったんだ。
そして、今から真希さんは出勤。あれが彼女の夜の顔。
手紙にはやんわりお断りの返事が書かれていた。
「あれ、朝のあの人なのか、全然違うじゃん。でも俺は夜の女ってなんかやだな」
僕はそんな風には思わない。真希さんに想いを寄せたことは間違ってなんかいない。僕は真希さんの匂いを纏った手紙を感傷に浸りながらただただ見つめていた。
— as different as day and night 昼と夜ほど違う
【as different as day and night】
コンビニのバイトを初めて三か月。少しでも稼ごうと夜勤のシフトにしたけども、慣れない昼夜逆転生活で日が昇る頃には立っているのもままならない。時計を見て終業まであと1時間かと溜息をつく。
「あの、すいません。これ払い込みで」
「あ、はい、ただいま」
お客さんは二十代くらいの女性。大きな黒縁メガネに髪を一つにまとめ、どちらかというと地味なタイプだけど香水の香りが品よく漂う。
僕は女性がセルフレジで支払いをしている間に払い込み用紙にハンコを押す。
僕はその女性の名前が“今泉真希”であることを払い込み用紙から知った。
「ありがとうございました。こちら控えになります」
「はい」女性は控えをしまうとお店を出て行った。
「おい、慎二。お前さっきの女をジロジロ見てただろ。あんな地味子がタイプなのか?」
「そんなわけないだろ」バイト仲間の光一から茶化されて僕は咄嗟に否定する。
だけどその通りなんだ。僕は真希さんに惹かれてる。とりわけああいう感じの女性が好みというわけじゃないはずなんだけど。
その後も真希さんはちょくちょく来店した。何回目だっただろうか、僕は思い切って声をかけた。
「早いんですね」
「え、ええ、ちょっと仕事場が遠くて」真希さんは意表をつかれたようにはにかみながら答えた。
「1252円です」
真希さんは支払いを終えて商品を受け取る。
「いってらっしゃい」
真希さんは微妙な笑顔を見せて軽く会釈し店を後にした。
真希さんが来ない日は、こっそり撮ってスマホに保存した真希さんの写真を眺めて過ごした。
「慎二、それあの時言ってたお客さんだろ? お前やっぱりホれてんのか?」
背後に光一がいることに気づかずうっかり見られてしまった。
「いいだろ別に」
「照れんなって。いいじゃん告っちゃえよ」
「できるわけないだろ、連絡先知らないし店内だし」
「そこは恋文だろ」
「恋文っていつの時代だよ。ラブレターっていってくれよせめて」
「ラブレターって響きも昭和っぽいだろ? いっそ恋文って言った方が振り切っててよくね?」
「光一のこだわりはよくわからないな」
そうはいいつつも僕は光一のアドバイスに従って真希さんへの想いを綴った。
「あの、すいませんコレ読んでください。迷惑だったら破り捨てていいんで」僕は意を決して真希さんに手紙を渡す。
真希さんは一瞬戸惑ったけど手紙を受けとり、微笑みを見せる。
「いってらっしゃい」
そんな真希さんを僕はいつもの挨拶で送り出した。
「脈ありじゃね?」光一が茶化す。
「わかんないよ。あ、もう上がる時間だ。早く帰って寝ないと今晩きついぞ」
手紙に連絡先書いといたけど返事は来なかった。気になってロクに眠れなかった。あくびが止まらない。
「玉砕か」光一がしみじみ言う。
「ほっとけよ」
「おい、見ろよ。いい女」
見ると夜のお店で働く感じの派手な身なりの女性がレジに向かってきた。
女性は買い物カゴを置いて財布を取り出す。
「980円です」
「今日は言ってくれないのね」支払いを済ませた女性がにっこり微笑んで、封筒を置いた。
「行ってきます」女性はくるりと背を向けて去っていった。
あの香水のかおり、まさか。
僕は封筒を開けて、手紙を読んだ。
真希さんは、いわゆるキャバ嬢。いつもは仕事が終わってから目立たない格好に着替えて帰り道に立ち寄っていたのだ。かけるべき言葉は”いってらっしゃい”ではなく、”お疲れ様”だったんだ。
そして、今から真希さんは出勤。あれが彼女の夜の顔。
手紙にはやんわりお断りの返事が書かれていた。
「あれ、朝のあの人なのか、全然違うじゃん。でも俺は夜の女ってなんかやだな」
僕はそんな風には思わない。真希さんに想いを寄せたことは間違ってなんかいない。僕は真希さんの匂いを纏った手紙を感傷に浸りながらただただ見つめていた。
— as different as day and night 昼と夜ほど違う