【駅舎】【壁】【熊】

文字数 515文字

課題: ひらがなの”た”使用禁止

 熊という動物は非常に賢い生き物である。マタギというか猟犬と熊の闘いがテーマの古いマンガがあって、その中で熊の狡猾さが詳細に描かれている。熊の本当の恐ろしさは、鋭い牙やナイフのような爪などではなく、その恐るべき学習能力にある。

 山の中で生活する彼らは、時に蜂蜜を得る為に蜂の攻撃をものともせずに、その巣を襲う。しかし、一度街に降りて民家に侵入し、労せず食料を得ることを学び、人間の味を覚えると、わざわざ痛い思いをしてまで蜂と争おうとは考えなくなる。

 本来彼らにとって人間とは脅威の対象ではあるが、そうでないと学習してしまうと、どんどんその行動範囲は広がっていく。

 そして今まさに、一頭の熊が街へと向かっている。その熊の知性は非常に高く、人間に全く警戒をしていない。

 駅舎からゆっくりと出てきた熊との突然の遭遇に少女達は絶叫する。その悲鳴はすぐに伝播し、遠くからスマホで写真を撮る者、泣き出す者、中には失神する者までいる。周囲一帯は一瞬でパニックである。

 熊が口を開く。
「ハチミツが欲しいの」

 もはや、その赤いシャツに黄色の毛並みの熊と、人間達を隔てる壁はない。人々はその熊に黄色い歓声を送り続ける。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み