【拾った犬】【メフィスト】【虹色の世界】

文字数 1,228文字

課題 希望のある話にしてください。


【SMの偉人】

 ヘンリー • シーは中国で生まれ、12才の頃家族でフィリピンへと移住した。その後家族は中国に戻ったがヘンリーはマニラに残り、靴磨き職人として生計を立てることとなる。
 フィリピンには貧困街が多い。まともに職につけず、ヘンリー同様靴磨きをするものも多い。ライバルが多いわけだからヘンリーの暮らしも楽ではない。
 今日もヘンリーのところに客は来ない。来るのは腹を空かせた子犬が一匹。ヘンリーはなけなしのパンを与えて、家に連れ帰った。
 暮らしは貧しい上に頼れる家族もいない。ヘンリーは、寂しさを紛らわす為か、【拾った犬】を見て語りかける。

「いつか絶対ビッグになってやる」

 すると突然、その犬はみるみる大きくなり、異形の人型となった。
 あまりの出来事にヘンリーは声を失う。そんなヘンリーをよそに、さっきまで犬であった何かは口を開く。
「オレの名は【メフィスト】。お前ら人間の言うところの悪魔だ。ヘンリーよ、その望み叶えてやってもいい」
「本当か?」
「ああ、オレの問題に答えることができたらな。ただし何ごともリスクはつきものだ。もし間違えたらお前の魂をいただく」
「構わない、どうせ死んでいるような毎日だ。こんな暮らしとおさらばできるならなんだってやってやる」
「いい度胸だ」
「それで問題とは?」
「そうだな【虹色の世界】とでもいっておくか。お前に問う、虹の両端は何色だ?」
 ヘンリーは考えた。中国では虹は5色で両端は赤と紫だが、東南アジアは4色の上、赤と黒である。他の国でも数に違いはあれど、両端は赤と紫なのは同じである。それが正解なのか? それともこの国の標準が正解なのか、どちらにせよ悪魔の問題がそのような答えを求めるものだろうか。ヘンリーは一つの可能性を考えた。確証はない。だが意を決して答える。
「透明だ」
「理由を聞こうか」
「赤や紫は可視光線、つまり目に見える光。その外側に目に見えない光がある。読んで字の如く、紫外線と赤外線だ」
 メフィストはニヤリと笑みをみせる。
「正解だ。いいだろう明日から靴磨きに励め」
「何だって? 約束が違うだろ!」
「慌てるな、オレはすぐに叶えるとは言ってない。いいか、必ずうまくいく」
 メフィストは再び子犬となった。

 ヘンリーは、その犬を連れて靴磨きに出かける。すると、犬が客寄せとなってヘンリーの元に足を向けるひとがでてきた。
 絶対客を逃してはいけない。そう思ったヘンリーは、靴がより輝いて見えるように光の向きに意識を向けた。これが功を奏し、瞬く間に多くの顧客を獲得した。
 その後ヘンリーは靴屋を開く。その店の名は、SM(Shoe Mart)。その後も業績は鰻上りで、ついに経済誌フォーブスに名を連ねる大富豪になったのであった。



実在するフィリピンの巨大ショッピングセンターSMとその創業者ヘンリー•シーをモデルにした創作でした。
タイトルからロープとか蝋燭とか考えちゃった人は心が汚れた人です。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み