【はしご】【チューリップ】【除夜の鐘】
文字数 1,496文字
【口に出さない男と女】
課題:結婚して数年目の倦怠期っぽいカップルにエールを送るような話の第一話
「ねぇ、あなた何か隣のテーブルのカップルってマナー悪くない? さっきからスマホで写真撮ってばっかりだし。気になって味も良くわからないわ」
せっかくクリスマスディナーブッフェに連れてきたというのに、妻は声を潜めて不満をもらす。悪気はないのだろうが、何故女という生き物は不満の種を探しては文句ばかり言うのだと、私は口には出さないが、思わずため息が漏れる。
「そんな気にするほどのことじゃないよ。さぁ食べよう」
あたしが真剣に聞いているのに、夫ときたら生返事を返してばかりだ。どうして男という生き物はこうも女性の気持ちがわからないのだろう。共感してほしいだけだし、言いたい事があるならはっきり言えばいいのにと、あたしは口にはしないけどついつい態度には出てしまう。
「ごめんなさい」
口では謝っているが、その様子から妻が納得していないのは明らかだ。新婚当時、怒らないからはっきり言ってというもんだから、正直に言ったらその後三日間口を聞いてくれなくなった。私は口には出さないが、これでいいんだと自分に言い聞かす。
「すまない」
どうして男ってみんな日和見主義なのかしら。とりあえず謝っておけば済むと思って、早く話題を逸らそうとする。あたしは口にはしないけど、自然とカトラリーの扱いも荒くなる。
カランコロンカラーン
「スペシャルメニュー、チューリップの唐揚げ、あげたてでーす!」
スタッフが陽気に声をあげる。
「ちょっと、去年までチキンレッグだったのに、チューリップって手羽元でしょ? ずいぶんランクダウンね」
まただ、確かに妻の不満はしごく真っ当だ。だけど、この不景気だ。多少のことはしょうがないだろうと、私は口には出さないが、付き合っていた頃はこんな風ではなかったなと、料理を取りに席を立つ。
「さぁ、混雑する前に取りに行こう」
夫は相変わらず。あたしとのやりとりを面倒くさがっているようにみえる。結婚前はもっと優しかったのに。結局釣った魚に餌はないのねと、あたしは口にはしないけど、その思いをワインで流し込む。
結婚して三年も経てばどこもこんなものか。新婚当時はこんなふうになるとは思っていなかった。いや、妻のせいだけではない。鐘のなるチャペルで愛を誓い一生幸せにすると約束した私もまた変わってしまったのかもしれないなと、そんなことを私は口には出さないが、雰囲気をまずくしないよう、虚飾に満ちた言葉が自然と溢れる。
「美味しかったね」
夫が何を考えているかは分かっている。こんな結婚間違っていたと。でも、夫は決してそんなことを言わない。平和主義と言えば聞こえはいいけど、あたしとの会話が面倒になっているだけなのよ。でも、それはあたしも同じ。決してそんなこと口にはしないけど、ただ相槌をうつだけ。
「ええ」
妻との関係を良好に保とうと食事に出かけたが、妻の機嫌はよくならないようだ。この先このままやっていけるのだろうか、私はそんな不安を口には出さないが、作り笑顔を浮かべて、二人店を出る。
「じゃあ帰ろうか」
あたしもこのディナーで夫とやり直すきっかけを作りたかった。いつからこんなふうになって、しまったのだろう。あたしは口にはしないけど、そんな思いを抱えたまま大晦日を迎えた。
年越しで賑わう人混みに私たちはいる。私は口には出さないが、こんな関係のまま新年を迎えてもおめでたくもないなと頭を掻く。
ゴーン
除夜の鐘が鳴り響く。ふとそれは妻と式をあげた教会の鐘の音に重なった。
私は妻の手を握った。
妻は何も言わずに微笑んだ。
課題:結婚して数年目の倦怠期っぽいカップルにエールを送るような話の第一話
「ねぇ、あなた何か隣のテーブルのカップルってマナー悪くない? さっきからスマホで写真撮ってばっかりだし。気になって味も良くわからないわ」
せっかくクリスマスディナーブッフェに連れてきたというのに、妻は声を潜めて不満をもらす。悪気はないのだろうが、何故女という生き物は不満の種を探しては文句ばかり言うのだと、私は口には出さないが、思わずため息が漏れる。
「そんな気にするほどのことじゃないよ。さぁ食べよう」
あたしが真剣に聞いているのに、夫ときたら生返事を返してばかりだ。どうして男という生き物はこうも女性の気持ちがわからないのだろう。共感してほしいだけだし、言いたい事があるならはっきり言えばいいのにと、あたしは口にはしないけどついつい態度には出てしまう。
「ごめんなさい」
口では謝っているが、その様子から妻が納得していないのは明らかだ。新婚当時、怒らないからはっきり言ってというもんだから、正直に言ったらその後三日間口を聞いてくれなくなった。私は口には出さないが、これでいいんだと自分に言い聞かす。
「すまない」
どうして男ってみんな日和見主義なのかしら。とりあえず謝っておけば済むと思って、早く話題を逸らそうとする。あたしは口にはしないけど、自然とカトラリーの扱いも荒くなる。
カランコロンカラーン
「スペシャルメニュー、チューリップの唐揚げ、あげたてでーす!」
スタッフが陽気に声をあげる。
「ちょっと、去年までチキンレッグだったのに、チューリップって手羽元でしょ? ずいぶんランクダウンね」
まただ、確かに妻の不満はしごく真っ当だ。だけど、この不景気だ。多少のことはしょうがないだろうと、私は口には出さないが、付き合っていた頃はこんな風ではなかったなと、料理を取りに席を立つ。
「さぁ、混雑する前に取りに行こう」
夫は相変わらず。あたしとのやりとりを面倒くさがっているようにみえる。結婚前はもっと優しかったのに。結局釣った魚に餌はないのねと、あたしは口にはしないけど、その思いをワインで流し込む。
結婚して三年も経てばどこもこんなものか。新婚当時はこんなふうになるとは思っていなかった。いや、妻のせいだけではない。鐘のなるチャペルで愛を誓い一生幸せにすると約束した私もまた変わってしまったのかもしれないなと、そんなことを私は口には出さないが、雰囲気をまずくしないよう、虚飾に満ちた言葉が自然と溢れる。
「美味しかったね」
夫が何を考えているかは分かっている。こんな結婚間違っていたと。でも、夫は決してそんなことを言わない。平和主義と言えば聞こえはいいけど、あたしとの会話が面倒になっているだけなのよ。でも、それはあたしも同じ。決してそんなこと口にはしないけど、ただ相槌をうつだけ。
「ええ」
妻との関係を良好に保とうと食事に出かけたが、妻の機嫌はよくならないようだ。この先このままやっていけるのだろうか、私はそんな不安を口には出さないが、作り笑顔を浮かべて、二人店を出る。
「じゃあ帰ろうか」
あたしもこのディナーで夫とやり直すきっかけを作りたかった。いつからこんなふうになって、しまったのだろう。あたしは口にはしないけど、そんな思いを抱えたまま大晦日を迎えた。
年越しで賑わう人混みに私たちはいる。私は口には出さないが、こんな関係のまま新年を迎えてもおめでたくもないなと頭を掻く。
ゴーン
除夜の鐘が鳴り響く。ふとそれは妻と式をあげた教会の鐘の音に重なった。
私は妻の手を握った。
妻は何も言わずに微笑んだ。