【バロス】【ルナ】【首の長い子犬】

文字数 497文字

課題:「なんらか平家物語のテイスト入れてください」


 俺もすっかり弱くなったもんだ。年を取ると、体のあちこちにガタがくる。たかだか、腹に違和感があっただけなのに、不安になって胃腸科にきてしまった。案の定どうということはない、単なるガスだまりだと告げられた。
 毎食後服用してくださいと渡された薬袋には、バロス消泡内溶液2%とか、ジメチコン内溶液とか、何かの呪文のような聞いたこともない薬名が書かれている。
 若い時は何でもできた。怖い物など何もなく、一匹狼でやってきたが、この年になるとそうもいかない。嫌でも自分の弱さに気付かされる。気づけば弱音を吐ける相手など一人もいない。
 帰り道、電信柱の影に、段ボールに入れられて捨てられている犬を見つけた。ニホンオオカミのように首の長い子犬は、悲しげな瞳で俺を見る。
 オオカミもまた、かつて神の眷属(けんぞく)として”大神”の字を当てられていたが、今やそんなことを知る人々はほとんどいないだろう。
 盛りあるものは必ず衰える。俺はその子犬に自分の姿をダブらせ連れて帰ることにした。

「お前はまだまだこれからだ」
 月に吠えるオオカミを思い浮かべてルナと名付けた子犬に俺は言う。
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