【記憶】【線路】【蛇】

文字数 871文字

課題は「動物」を主人公にする。


【勝手踏切】

 ケータイのアラームに飛び起き、時間を確認する。どうやら無意識にスヌーズしたのだろう、30分の寝坊だ。朝食を食べている暇はない、僕はあわてて身支度を済ませて家をでる。
 会社へは家の前の線路を越えなければいけない。踏切は東に100メートル位ある上に、なかなか遮断機が開かない。踏切を渡ったら今度は西に戻らなければならず面倒だ。
 いつだったか忘れたが、僕は家の前にある線路への立入防止の柵を改造して扉をつけた。違法であることはわかっているが、僕はそこから線路を越えるようになった。後で知ったことだが、これは勝手踏切と呼ばれるものらしい。
 僕はいつものように扉を明けると、足下に蛇がとぐろを巻いていた。子供の頃から蛇は神様だと聞かされていたけど、気持ち悪くてそんな風に思ったことはない。何でこんなところにと忌々しく思いながら、持っていた傘で線路に放り投げて、線路を渡る。
 警笛がけたたましく響いた。体が動かない。

 僕は茂みの中で目を覚ました。何故こんなところにと考えてみたが記憶にない。寒い、身体が動かない。
 やがて朝日が昇り気温が上がっていくと、身体はほぐれて、僕はニョロニョロと動き出す。

 ニョロニョロ!?

 僕は蛇になっていた。一体何故こんなことに? 変温動物の蛇は気温が上がらないと活動できない。それでさっきまで身体が動かなかったのか。
 早く会社に行かないとと思ったがこんな身体で行っても騒ぎになるだけだ。とりあえず家に戻らないと。腹が減った。僕は舌をチョロチョロしながら自宅に向かう。美味しそうな匂いがする! そうか、蛇の舌は匂いを感じるセンサーなのだ。僕は匂いの元へと向かうとそこにカエルがいた。狙いを定めかぶりつく。顎の関節を外して丸呑みにした。
 全く美味しくない、というか丸呑みだから味など感じない。
 ただ空腹を満たしただけの無味乾燥とした食事を済ませて、僕は線路をわたる。身体が重い。歪に膨らみ、消化の為胃に血液をとられたこの状態では無理もない。だけど、もうすぐだ。

 電車の警笛が聞こえた。
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