【内定】【内偵】【泣いて】
文字数 1,807文字
課題 カオス(混沌とした状態)を描く。
【鼎の軽重を問う】
「あー、退屈だ。おい木下! なんか面白いことやれ!」
「田中さん、無茶振りやめてくださいよ、仕事中ですよ」
「あ? お前俺のいうことが聞けねぇってのか? 俺が今まで随分目をかけてやったよな? お前みたいな使えねぇヤツをよ」
「すいません」
「よし! 説教だ、終わったら飲みに行くぞ! その腐った性根を叩き直してやる」
「勘弁してください」木下は消え入りそうな声で答える。
「田中くん!」
「あ、はい、課長なんでしょうか?」突然課長の大島から声をかけられて田中は身を正す。
「今日から君の下で働くことになった米倉さんだ。よろしく頼むよ」大島は隣にいる女性を紹介した。
「米倉です。よろしくお願いします」そう言って米倉は頭を下げて
「とりあえずまだ事務手続きが残っているから、今日は顔合わせで実質的な配属は明日からになる。じゃあ米倉さん行こうか」
「はい」
大島と米倉はオフィスを出ていった。
「たまんねぇな。いいケツしてやがる」
「田中さん、女性もいるんですからセクハラですよ」
「木下、お前俺に意見できるとは偉くなったな。女なんてロクに仕事も出来ねぇくせに生理休暇だ産休だと羨ましい限りだ、せめて男を悦ばせろってことだ」
「田中さん、いくらなんでもそれは、……」
「おい、木下。それにしても妙じゃねぇかこんな時期に新規で採用なんてよ。俺はそんな内定が出たなんて聞いてねぇぞ」
「そう言えば変ですね」
田中の頬が緩む。
「課長の女ってことか」
「え、さすがにそれはないんじゃないですか?」
「いや、俺の勘に狂いはねぇ。課長に愛人の一人や二人いても不思議じゃないからな。あいつが上にいるせいで俺は万年係長だ。今こそ鼎の軽重を問う頃合いだ」
「かなえのけいちょうをとう?」
「統治者の実力を疑って地位を覆すってことだ。俺が課長の座を奪ってやる。おい木下、あの米倉って女を洗え」
「え? 内偵するってことですか?」
「そうだ、課長との関係を探ってネタ掴んじまえばこっちのもんよ」
「でも業務の方は、……」
「そんなもん家に帰ってからやればいいだろ。俺らの時代じゃ当たり前だ」
「はい」木下は力無く答えた。
翌日
「係長やめてください」
「米倉、お前新米のくせにボスの俺に逆らうのか? 尻ぐらいさわらせろよ。いいか、俺の言葉ひとつでお前をやめさせることだってできるんだぞ」
「あの、係長」女性社員が言いにくそうに声をかける。
「何だ?」
「あ、えっと今託児所から連絡があって子どもが熱を出したので迎えに来て欲しいと、……」
「いいご身分だな。俺も女に生まれたかったぜ。どうせお前データ入力だけだろ、オイ米倉お前代わりにやっとけ」
「失礼します」女性社員は涙を浮かべて去っていった。
「女はいいよなー、とりあえず泣いておけば許されると思ってんだからな。なぁ木下、なんかわかったか?」
「いえ、それが何もわからないんです。課長以外に誰も知らないって。課長の一存で決められるはずはないんですが」
「怪しいな」田中はニヤリと笑みを見せる。
「それと昨日業務後に課長と一緒に出かけたようです」
「どこへだ?」
「いえ、そこまでは」
「お前尾行してねぇのか? 本当使えねぇヤツだな。まぁいい、今度はしっかり尾行しろ。いいか、気づかれるなよ」
そして数日後
「田中さん、撮りました! 課長と米倉さんが一緒にホテルに入って行くところです」木下は写真を田中に見せた。
「よくやった、これで課長の座は俺のもんだ。米倉もな」
「何が君のものなんだ?」課長の大島が田中の背後から声をかける。
「あ、課長、いや大島、やらかしたな」田中は木下からスマホをひったくり先ほどの写真を突きつける。
「それは合成写真だ」大島は動じることなく答えた。
「は? 何を苦し紛れに」
「君のパワハラ、セクハラに関する相談を受けていてね、それで興信所に調査を依頼した」
「興信所?」
「そうだ、それで米倉さんにお越しいただき君を監視していたということだ」
「そんなバカな! おい木下! これはお前が撮ったんだよな?」田中は木下につかみかかり問い詰める。
「まだわかりませんか?」木下はその手を払い除けた。
「僕が課長に相談したんです。鼎の軽重を問うていたのはあなただけではなかったということです」
「田中くん、会議室に行こうか。わかるね? それと、……」
「木下”係長”よろしく頼むよ」
「はい!」
オフィスは拍手に包まれた。
【鼎の軽重を問う】
「あー、退屈だ。おい木下! なんか面白いことやれ!」
「田中さん、無茶振りやめてくださいよ、仕事中ですよ」
「あ? お前俺のいうことが聞けねぇってのか? 俺が今まで随分目をかけてやったよな? お前みたいな使えねぇヤツをよ」
「すいません」
「よし! 説教だ、終わったら飲みに行くぞ! その腐った性根を叩き直してやる」
「勘弁してください」木下は消え入りそうな声で答える。
「田中くん!」
「あ、はい、課長なんでしょうか?」突然課長の大島から声をかけられて田中は身を正す。
「今日から君の下で働くことになった米倉さんだ。よろしく頼むよ」大島は隣にいる女性を紹介した。
「米倉です。よろしくお願いします」そう言って米倉は頭を下げて
「とりあえずまだ事務手続きが残っているから、今日は顔合わせで実質的な配属は明日からになる。じゃあ米倉さん行こうか」
「はい」
大島と米倉はオフィスを出ていった。
「たまんねぇな。いいケツしてやがる」
「田中さん、女性もいるんですからセクハラですよ」
「木下、お前俺に意見できるとは偉くなったな。女なんてロクに仕事も出来ねぇくせに生理休暇だ産休だと羨ましい限りだ、せめて男を悦ばせろってことだ」
「田中さん、いくらなんでもそれは、……」
「おい、木下。それにしても妙じゃねぇかこんな時期に新規で採用なんてよ。俺はそんな内定が出たなんて聞いてねぇぞ」
「そう言えば変ですね」
田中の頬が緩む。
「課長の女ってことか」
「え、さすがにそれはないんじゃないですか?」
「いや、俺の勘に狂いはねぇ。課長に愛人の一人や二人いても不思議じゃないからな。あいつが上にいるせいで俺は万年係長だ。今こそ鼎の軽重を問う頃合いだ」
「かなえのけいちょうをとう?」
「統治者の実力を疑って地位を覆すってことだ。俺が課長の座を奪ってやる。おい木下、あの米倉って女を洗え」
「え? 内偵するってことですか?」
「そうだ、課長との関係を探ってネタ掴んじまえばこっちのもんよ」
「でも業務の方は、……」
「そんなもん家に帰ってからやればいいだろ。俺らの時代じゃ当たり前だ」
「はい」木下は力無く答えた。
翌日
「係長やめてください」
「米倉、お前新米のくせにボスの俺に逆らうのか? 尻ぐらいさわらせろよ。いいか、俺の言葉ひとつでお前をやめさせることだってできるんだぞ」
「あの、係長」女性社員が言いにくそうに声をかける。
「何だ?」
「あ、えっと今託児所から連絡があって子どもが熱を出したので迎えに来て欲しいと、……」
「いいご身分だな。俺も女に生まれたかったぜ。どうせお前データ入力だけだろ、オイ米倉お前代わりにやっとけ」
「失礼します」女性社員は涙を浮かべて去っていった。
「女はいいよなー、とりあえず泣いておけば許されると思ってんだからな。なぁ木下、なんかわかったか?」
「いえ、それが何もわからないんです。課長以外に誰も知らないって。課長の一存で決められるはずはないんですが」
「怪しいな」田中はニヤリと笑みを見せる。
「それと昨日業務後に課長と一緒に出かけたようです」
「どこへだ?」
「いえ、そこまでは」
「お前尾行してねぇのか? 本当使えねぇヤツだな。まぁいい、今度はしっかり尾行しろ。いいか、気づかれるなよ」
そして数日後
「田中さん、撮りました! 課長と米倉さんが一緒にホテルに入って行くところです」木下は写真を田中に見せた。
「よくやった、これで課長の座は俺のもんだ。米倉もな」
「何が君のものなんだ?」課長の大島が田中の背後から声をかける。
「あ、課長、いや大島、やらかしたな」田中は木下からスマホをひったくり先ほどの写真を突きつける。
「それは合成写真だ」大島は動じることなく答えた。
「は? 何を苦し紛れに」
「君のパワハラ、セクハラに関する相談を受けていてね、それで興信所に調査を依頼した」
「興信所?」
「そうだ、それで米倉さんにお越しいただき君を監視していたということだ」
「そんなバカな! おい木下! これはお前が撮ったんだよな?」田中は木下につかみかかり問い詰める。
「まだわかりませんか?」木下はその手を払い除けた。
「僕が課長に相談したんです。鼎の軽重を問うていたのはあなただけではなかったということです」
「田中くん、会議室に行こうか。わかるね? それと、……」
「木下”係長”よろしく頼むよ」
「はい!」
オフィスは拍手に包まれた。