【雨】【喰う】【ミイラ】

文字数 843文字

課題
「隠し事」


【良薬は口に苦し】

 時は宝永七年
「あー、膝が痛みやがる。雨のせいだな」忌々しげに外を眺めて久右衛門は膝をさする。
「あんた、いい薬があるよ。膝出してみな」妻、たきは笑顔で歩み寄る。
「何だ、いい薬って?」
「南蛮の薬だよ、いいかい痛むところに塗るのさ」たきは黒ずんだ物体を久右衛門の膝に塗り込んだ。
「効くのか? こんなんで?」
「一応飲んどこうか」たきはそう言って残りの薬をひとつまみして丸めた。
「おい、待て待て! 塗り薬を飲むのか?」
「万能薬ってお医者様言ってたから大丈夫さ。白湯を持ってくるよ」
 たきが戻ってくるまで久右衛門はしげしげと丸薬を眺めて、においをかぐ。
「なぁ、なんか臭くないかコレ?」
「な、何言ってんだい。薬なんてそんなもんだろ。ほら白湯持ってきたよ」
 久右衛門は訝りながらも白湯で丸薬を流し込む。
「どうだい?」
「どうって、そんなすぐに効かねぇだろ。それよりも虫歯の痛みが気になってきた」
「見してみな。ああ、大丈夫。この薬は虫歯にも効くんだ」たきは久右衛門の虫歯の窪みに蜜を塗り、黒い薬を詰め込んだ、
「他にも悪い所はないかい?」
「そうだな、二日酔いで頭が痛いくらいだが」
 たきは笑みを見せて語る「それなら冷水でこの薬を飲んだらいいさ」
「おいおい、いくらなんでも万能すぎるだろ? お前はその薬飲んだのか?」
「え、あ、あたいはまだ飲んでないよ」
「お前、なんかオレに隠してないか? そもそもなんだこの薬?」
 たきは薬を入れていた木箱をばつが悪そうに差し出した。
「木乃伊? なんて読むんだそれ」
「ミイラってんだよ。カピカピに干からびた人間の死体らしいよ。物珍しさで買ってみたけど、あたいは死体を喰うなんて気味悪いからあんたで試そうと思って。堪忍やで」
「ちょ、おま、ふざけんなよ! オレになんてもん飲ませてんだ!」
 頭に血が登った久右衛門はふらつく。
「あんた! 大丈夫かい? ほら薬飲みな!」
「そんなもん飲めるか!」



参考:江戸時代にミイラを輸入して薬として使っていたそうな
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