【カメレオン】【伏線】【祇園】

文字数 1,147文字

課題 ミステリアスなお話で。



【カメレオン人間】

「はぁー」
「何だ中山、大きなため息ついて」
「あ、高杉先輩。いや、今度祇園の料亭で飲み会あるじゃないですか。僕金欠でピンチなんですけど、僕みたいな新米は断れなくて給料日までカツカツですよ」中山はそう言ってアンパンを齧る。
「新人の辛いとこだナ。俺は法事と重なったから欠席だけど、誰が来るんだ?」
「えっと、阿部さん、木下さん、若井さん、佐原さん、……」
「佐原? アイツがくるのか!?」
「え、僕は佐原さんって関わりなくてよく知らないんですけど、どんな人なんですか?」
「そうか、あいつ中国支社から一時戻ってきてるだけだから、今のメンバー知らない奴らが多いかもだな。まぁ一言で、言えばカメレオン人間だ」
「カメレオン人間?」
「ああ、何でそう言うかというと、……」
「おい、高杉! お前、ごはん商事の長谷川さんからクレーム来てるぞ! さっさと対応しろ!」オフィスに課長の怒声が響く。
「あ、やべ。はい課長ただいま。悪い中山、この話はまたな」高杉は足早にオフィスを出て行った。
 高杉はどうやらクレーム対応にいっぱいいっぱいの様子であると中山は察し、まるで伏線のように言い残された「カメレオン人間」という言葉は気になりつつも、その意味を聞くことができなかった。
 中山はとりあえずネットで調べてみる。

“カメレオン人間ほど出世する”

 そんな見出しが目に飛び込んだ。
 つまり、仕事や飲み会、その場の状態に臨機応変に対応できる人のことらしい。そういえば、仕事ぶりはテキパキしていたような気もすると中山は記憶を巡らせる。

 結局、中山はそれ以上詮索することなく飲み会を迎えた。

「おう、若人飲め飲め!」
「あ、佐原さんありがとうございます」中山は佐原から勧められるまま、グラスを差し出してビールが注がれる。
 佐原の姿はオフィスで時々見かけるが、確かに仕事でのキッチりしたイメージと違い、ウィットに富んだジョークを交えたトークは人を惹きつけるものがあると中山はある種の尊敬の念を抱いた。
 そして佐原は他の参加者にもビールを注いで回る。宴は和気あいあいの雰囲気で進み、程なくお開きとなるところ事件が起きた。

「あれ? 佐原さんは?」参加者の中からそんな声が上がる。
「え? さっきまでいましたけどトイレじゃないですか?」他の参加者が答える。
 しかし、一向に戻ってくる気配はない。

 ブブブ

 中山のスマホのバイブがメール着信を知らせる。

“from 高杉
悪い中山、クレーム対応に手一杯で忘れてた。佐原には気をつけろ。カメレオンは漢字で避役って書くんだが、それは姿を消す幻獣の名だ。つまり、支払いの時になるといつのまにかいなくなってるんだアイツ。手遅れでないことを祈る”


「手遅れみたいです」中山は呟いた。
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