その42 Flying People

文字数 1,141文字

 自分たちのテスト勉強も兼ね、ノネちゃんの受験指導を一応は進学校の2人で行う。天気が良かったので、池袋サンシャインシティのオープンカフェに陣取った。

「でもよくインターナショナルスクールなんて思いついたね」

 何気なくわたしが訊くと、ノネちゃんはウォークマンのイヤフォンを片方ずつ渡し、三田くんとわたしに聴くように促す。

「それ、わたしの大好きな曲なんです」

 エッジの効いたギターリフ2音。そしてギター、ベース、ドラムがノイズとともにコンピューター処理された清涼なアレンジの前奏。その前奏の中で女性ヴォーカルが、”ラ・ラ・ラ”、という高音域と声量を披露する。

 歌が上手い。だけじゃなく、声に人格が宿っている。
 前奏だけでこの曲の世界の中に持って行かれた。

 けれども、歌が始まって、更にやられた。

・・・
 少年はいつも刺激を求めて 闇の淵で泳ぐ 
  欲を増やし苦しみさえも知って

 そしていつの日か 瞳孔の虹が 消えても
  幼いふりをしていつも歌い続ける

 太陽の色した種を 手のひらに埋めよう
  誇りが育つことを祈って

 Oh Flying people 僕らはいつも 盲目に追いかけてる
 Oh Flying people 何も見つけられないままで 死にたくはない

 止まることが許されない
 Maybe my soul's down but I'm ready to fight you
・・・・

「Core of soul の Flying people、って曲です。もう10年程前に解散したんですけど」

「ふうん。でも、それがどうして?」

「ヴォーカルの女の子とギターの男の子、それとマニピュレーションの男の子の3人組なんですけど、大阪のインターナショナルスクールの同級生だったんですよ、その3人」

「へえー」

「ギターの男の子は中国人で。で、女の子は日本人なんですけど、多分色んな事情があって高校はそこへ行ったのかな、って想像して。なので、わたしもインターナショナルスクールありかも、って思ったんです」

「いい曲だね」

 三田くん、目を閉じて聴いてる。
 
 ノネちゃんがにやにやする。

「2人でそうやってると恋人っぽいですよ」

「いや、そういうのはいいから」

 わたしは照れ隠しをするけれども、三田くんはまだ曲に聴き入ってる。
 本当に気に入ったようだ。
 終わってからイヤフォンを外して言った。

「光と影の両方を平等に歌ってる。それから、サビの部分でリズムマシンから生ドラムに切り替わるアレンジもかっこよすぎ」

 ノネちゃんは、うんうんと頷く。

「”何も見つけられないままで 死にたくはない”、って部分を本気で歌ってる」

 ノネちゃんが嬉しそうに笑う。

「今のわたしも、まったく同じ気持ちです」

 この3人にふさわしいテーマ曲だ。
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