その27 いじめのプレゼン
文字数 1,287文字
お盆に入っていることもあり、ロビーは静かだ。
3人とも何代も前からの東京人なので、朝の内に都内各所にあるそれぞれの家の墓参りを済ませて来ていた。
気だるい昼下がり、滝田さんが現れた。
打合せどおり、さっと3人で立ち上がり、丁寧にお辞儀をする。
そして、ハンドルネーム(?)で自己紹介する。
「アルジョです」「ノネです」「ミタです」
この辺の事情も全部事前に伝えてある。
「滝田です」
座る前にわたしは紙袋を渡す。
「あの、これ、研究室の皆さんでどうぞ」
滝田さんは黄色い紙袋を見て目を細める。
「お、福砂屋ですか・・・あ、五三焼じゃないですか!ありがとうございます」
腰かけ、滝田さんがホテルスタッフを呼び止め、2人はアイスコーヒー、三田くんとノネちゃんにはアイスティーを頼んでくれた。
滝田さんの最初の質問。
「ノネちゃんの義手、すごく動きがスムーズですね」
「はい。ロボット義指の最新技術を使ってるんです。おかげで日常生活はなんとか1人でできます」
「そうですか。それは素晴らしい」
それから一通り3人の学校生活やら最近読んだ本やらの雑談を10分ほど。そして本題に入る。
「さて、アルジョさん。”いじめ”、ですね。一般的にはお互い触れずに済ませたいsensitiveなテーマですよね」
「そう思います」
「レポートでのアルジョさんの結論としては、”いじめの苦しみを戦争や災害、犯罪被害者の苦しみと同等に扱うべき”、ってことだと受け取りました。合ってますか?」
「はい。その通りです」
滝田さんは深く頷く。
「ただし、そうなるためには、いじめの解決への取り組みが社会的にメリットがあるという風潮を作らないといけない」
「はい。それこそ営業かけてプレゼンして訴えかける必要があると思ってます」
「でも、学術論文だとそういう効果は薄いですよ」
滝田さんは自分自身が研究者のくせにこんなことを言う。先生ぽくない。わたしは自分の構想を話す。
「論文じゃだめだと思います。でも、わたしはマンガを描いたり映画を作ったりという才能はありません。文章を書くことができるだけです。ですから、エッセーとか小説っぽいもので表現したいと思ってます」
「うーん」
滝田さんは考える人のようなポーズをとってしばし熟考する。
「確かに倫理学は文学に近い分野だと思います。小説をテキストとして授業を進めることもよくあります。でも、私の研究と貴女の研究をコラボするといってもどうすれば・・・」
「研究室のHPで紹介していただけないでしょうか」
「ああ・・・なるほど」
「大学内の学生さんたちに見ていただけるだけでも相当な効果があると思うんです。滝田さんにとってもチャンスだと思いますよ」
「チャンス?」
「はい。わたしとミタくんは高校1年生。15歳です」
「うん。若いですよね」
「ノネちゃんに至っては小6で12歳。10代の若者と新進気鋭(?)の倫理学者が、”いじめの研究”、でコラボ。物凄いインパクトありますよ」
「うーん、確かに」
「それに彼女」
わたしは手のひらでノネちゃんを示す。
「美少女だと思いませんか?」
ノネちゃんは俯いて右手をぶんぶん振る。
3人とも何代も前からの東京人なので、朝の内に都内各所にあるそれぞれの家の墓参りを済ませて来ていた。
気だるい昼下がり、滝田さんが現れた。
打合せどおり、さっと3人で立ち上がり、丁寧にお辞儀をする。
そして、ハンドルネーム(?)で自己紹介する。
「アルジョです」「ノネです」「ミタです」
この辺の事情も全部事前に伝えてある。
「滝田です」
座る前にわたしは紙袋を渡す。
「あの、これ、研究室の皆さんでどうぞ」
滝田さんは黄色い紙袋を見て目を細める。
「お、福砂屋ですか・・・あ、五三焼じゃないですか!ありがとうございます」
腰かけ、滝田さんがホテルスタッフを呼び止め、2人はアイスコーヒー、三田くんとノネちゃんにはアイスティーを頼んでくれた。
滝田さんの最初の質問。
「ノネちゃんの義手、すごく動きがスムーズですね」
「はい。ロボット義指の最新技術を使ってるんです。おかげで日常生活はなんとか1人でできます」
「そうですか。それは素晴らしい」
それから一通り3人の学校生活やら最近読んだ本やらの雑談を10分ほど。そして本題に入る。
「さて、アルジョさん。”いじめ”、ですね。一般的にはお互い触れずに済ませたいsensitiveなテーマですよね」
「そう思います」
「レポートでのアルジョさんの結論としては、”いじめの苦しみを戦争や災害、犯罪被害者の苦しみと同等に扱うべき”、ってことだと受け取りました。合ってますか?」
「はい。その通りです」
滝田さんは深く頷く。
「ただし、そうなるためには、いじめの解決への取り組みが社会的にメリットがあるという風潮を作らないといけない」
「はい。それこそ営業かけてプレゼンして訴えかける必要があると思ってます」
「でも、学術論文だとそういう効果は薄いですよ」
滝田さんは自分自身が研究者のくせにこんなことを言う。先生ぽくない。わたしは自分の構想を話す。
「論文じゃだめだと思います。でも、わたしはマンガを描いたり映画を作ったりという才能はありません。文章を書くことができるだけです。ですから、エッセーとか小説っぽいもので表現したいと思ってます」
「うーん」
滝田さんは考える人のようなポーズをとってしばし熟考する。
「確かに倫理学は文学に近い分野だと思います。小説をテキストとして授業を進めることもよくあります。でも、私の研究と貴女の研究をコラボするといってもどうすれば・・・」
「研究室のHPで紹介していただけないでしょうか」
「ああ・・・なるほど」
「大学内の学生さんたちに見ていただけるだけでも相当な効果があると思うんです。滝田さんにとってもチャンスだと思いますよ」
「チャンス?」
「はい。わたしとミタくんは高校1年生。15歳です」
「うん。若いですよね」
「ノネちゃんに至っては小6で12歳。10代の若者と新進気鋭(?)の倫理学者が、”いじめの研究”、でコラボ。物凄いインパクトありますよ」
「うーん、確かに」
「それに彼女」
わたしは手のひらでノネちゃんを示す。
「美少女だと思いませんか?」
ノネちゃんは俯いて右手をぶんぶん振る。