その13 わたしの、本質

文字数 916文字

 物語のようには話せなかった。
 動詞を極力排除して語ったのは次の内容。
 文字通り、箇条書きのように喋った。

・ 給食の野菜スープの鞄への流入

・ 排泄物と汚物を掛け合わせたあだ名

・ 頭頂部への唾液の垂れ流し

・ 自閉症男子とのキスの強要

・ 石の投擲

・ 攻撃を伴う無視

・ 自殺の強要


「自殺の、強要?」

「わたし、飛び降りたんだ」

「どこから?」

「北アルプスの、3,015mの頂上から」

「え?」

「わたしの小学校、精神修養のためか、6年生の夏に登山するんだよね。比較的登りやすい山なんだけど。頂上に神社があって。頂上のスペースは狭いから10人ぐらいずつの塊で入れ替わりで参拝してる時、いわゆるスクールカーストの頂点の子がね」

「・・・・」

「早く、死ねよ、って」

 わたしはほとんど氷水となったアイスコーヒーを飲み干してから続けた。

「飛び降りたんだ」

 わたしは、薄く笑う。

「断崖絶壁に見えたんだけど、傾斜は30度ちょっとで、20mぐらい滑落して止まった。手足は傷だらけになったけど。ほら、ここ」

 いっ、と右唇を指で横に引っ張る。

「口が裂けちゃったんだよね、この傷。また変なあだ名、つけられるところだったよね」

「あだ名、大丈夫だったの?」

「うん。そのまま病院通いで学校には来なくていいってことになったから。わたしの行った病院てどこだと思う?」

「外科・・・総合病院?」

「精神科」

「精神科・・・」

「うん、もちろん外科にも行ったよ。その後でね。クラス全員で、”あいつ、何もないのにいきなり飛び降りたんだよ。こえーよ”、って言ってたんだって。わたしは黙って医者の促すままに精神科へまわされた。重度のうつ病だ、って診断された。一週間入院して、あとは卒業まで一度も学校に行かずに済んだ」

「薬とか、飲んでたの?」

「うん。でも、スクールカーストってうまい造語だよね」

「そう?」

「だって、”解脱”、してる人もいるからね。それで、甲子園行ったり、東大受かったり、ボランティア活動したり、前向きに社会的に評価されてる人は決して攻撃の対象にならない。まあ、”解脱者”、へのひがみだけどね」

「違うよ」

「え?」

「”解脱”、の訳語は、”傍観”、だよ」

「・・・ありがとう」

 屈折、してる。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み