その18 危険な逢瀬

文字数 993文字

「長坂さん」

「はい?」

 今日は月曜。夏休みに入り、三田くんはポピーのバイトを増やしていた。
 わたしは午前中に家事全般を済ませ、うだるような暑さの午後は区立図書館で学校の課題をやり、夕涼みにポピーに寄るという生活スタイル。
 ポピーの店内は近所の西友の女性パートさんがタバコを吸うついでにアイスコーヒーを飲んでいる。
 
 もう一度、三田くんに訊く。

「何?」

「いや、美人じゃない、なんて言ってごめんね」

「ああ・・・ブログ、読んでくれたんだ」

「やっぱり、傷ついた?」

「全然。だって、ほんとのことだもん」

「その・・・・ありきたりの、”美人”、じゃないって意味で、長坂さんがブスとかそんなんじゃないからね」

「分かってるよ」

「俺の好みから言うと美人じゃない、っていう」

「そっちの方が傷つくよ。三田くんの好みって?」

「多部未華子」

「普通に美人じゃん」

「普通じゃないよ。あの人、瞼が一重でしょ」

「そうだった?」

「一重の女優なんて見たこと無いよ」

「わたしは二重だけど美人じゃないよ」

「話は全然変わるけど」

「ほんと、突然変わるね」

 三田くん、そこで食べてていいよ、というマスターの声を聞いて、彼は賄のタコライスをテーブルに置いてわたしの向かいに座る。そのまま晩御飯を食べながら話す。

「”no name” と会うの?」

 わたしは固まる。

 土曜深夜のわたしの本文に対し10分後にはコメントが入ったのだ。

”ある女子高生さん、私の問いかけに誠実にお答えくださりありがとうございます。貴女はやっぱり私の思った通りの人でした。
 唐突ですが、私と会っていただけませんか?ネット上の遣り取りなんで、連絡先を教え合うのはまずいと思いますから、一方的に日時と場所だけお示しします。
 8月1日(土)AM10:00、神保町 東京堂書店1F文庫本コーナー。
 私の性別は、女、です。
 なりすまし防止のため、私の容姿の情報。
 私は、誰から見ても、”意表を突く”、容姿をしています。
 もし来られたら来てください。来ない方が当然だと思えるぐらいの常識は持ってますので、気になさらず”

「行ってみたい気持ちもある」

「あぶなくない?」

「うん。はっきり言って怖い」

「オフ会とかいうのも結局昔の、”出会い系”、みたいなもんでしょ?それよりもずっとやばいよ」

「三田くん」

「うん」

「一緒に行ってくれない?」

「いいよ」

「あっさりだね!」

「俺も会ってみたいもん」
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