その26 倫理学の准教授

文字数 643文字

 待ち合わせ場所には御茶ノ水の山の上ホテルのロビーが指定された。
 
 神保町から歩いても10分足らずの所に位置する伝統ある静かなホテル。
 
 会ってくれるのは、やはりこの界隈にある私立大学の准教授。

 三田くんとノネちゃんとでわたしを挟み、ソファーに腰かけて約束の時間を待つ。

「ほんとに俺がいていいの?ノネちゃんは分かるけど・・・」

「いい、いい」

 2人して三田くんを持ち上げる。

「乗りかかった船と思って。泥船かもしれないけど」

「嫌なこと言うね」

 わたしは森永大学の滝田(たきた)准教授にメールを送った。レポートを添付して。

 大学のHPには顔写真入りで滝田さんのプロフィールが載ってた。

 男性、36歳、眼鏡をかけ、鼻の下に髭を生やし、丸顔。
 見た目よりも重視したのが専攻。
 ”倫理学”、ってなってた。

 多分この時代にこんなことを研究するのは変わり者だろうと思ってこの人に決めた。なぜなら相手にしてもらえる確率が高いだろうから。
 案の定、「面白いし興味深い」と返信が来、アポが取れた。2人が同席することも伝えた。

「アルジョさん、ありがとうございます。まさか小学生のわたしが大学の先生と会えるなんて」

「ううん。ノネちゃんがいてくれると助かる。ノネちゃんも自分を売り込むんだよ」

「そうですね。生意気かもしれませんけど、色々議論してみたいです」

「うん。それから、誤解を恐れずに言うけど、ノネちゃんの見た目は武器になるから」

「分かってます。左腕と義指ですよね」

 わたしは首を振ってにっこり笑う。

「ううん。顔、だよ」



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