その9 今後の展望

文字数 933文字

 わたしと三田くんは、学校でちょくちょく話すようになった。ほとんどが教室の隅っことか、廊下でばったり会った時にその場で立ち話とかって感じだけれども、結構自分としては嬉しい。あまりこの学校の生徒とはかかわりを持たないようにしていたけれども、とても自然な感じで三田くんとは遣り取りできている。

 その内、本当に三田くんは土曜日にポピーのバイトを始めた。

 カウンターと厨房の脇あたりにウェイターとして控えている三田くん。

 マスターと三田くんは時折会話をしながら、閉店までの時間、仕事をしている。三田くんはウェイターの仕事の他に、翌朝のモーニングのための仕込みなんかも手伝っている。玉子サンドの具を調理したり、マスターがコーヒーのドリップに掛かっているときは、オーダーをそのまま三田くんが厨房の重そうなフライパンを振って、からっ・もちっ、とした感じのおいしそうなナポリタンや焼うどんを作り、そのままお客さんに運んでいる。ちょっと照れ臭かったけれども、わたしも

「ナポリタン・・・」

と、何度かオーダーした。

 三田くんとわたしは今後の高校生活も含めた、将来の展望というものを漠然と話したことがある。ポピーが閉店した後、マスターのご厚意で30分ほど店内の隅っこのテーブルを借りて。

「わたしは、大学へ行って、心理学か社会学を専攻するつもり。もちろん、いじめの根絶を目指して」

「俺は」

 三田くんがどんな展望を持っているのか、気にかかる。

「長坂さんの研究を歌にでもしようか」

「へ?歌?」

「うん」

「歌、って、音楽ってこと?」

「そうだよ」

「それって本気?」

「うん。だって、どんなに凄い研究やら学問をしたって、それが人に伝わらなかったら意味ないでしょ?」

「うーん、そう・・・だね・・・」

「エンターテイメントでもって深いことを伝えられたら一番凄いと思う」

「たとえば、誰かそういう歌手とかバンドとかっているの?」

「エレファントカシマシとか、アシッドマンとか、ドラゴンアッシュとか」

「ふーん」

「聴いたこと、ある?」

「ううん、ない」

「じゃあ、今度聴かせてあげるよ」

 なんだか、わたしが補わなくてはいけない部分を三田くんは無意識の内に知っているようだ。

 これから、長い付き合いになるような、そんな気がする。
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