最終話 Core of Soul

文字数 901文字

 ぶつっ、と会話が途切れる。

 三田くんとわたしにはそんな瞬間がよくある。

 ノネちゃんが、死んだ。

 渋谷のセレモニーホールのお通夜に三田くんと2人で参列した。

 彼女の本名は、園田(そのだ)紫花(しはな)
 物語の主人公のような美しい名前だと思う。

 わたしのブログに、”no nameの父”、というコメントが入った。

 ノネちゃんが死んだこと。死因は自殺未遂時に損傷した肝臓の後遺症でずっと闘病してたこと。死ぬ前に彼女からわたしのブログについて聞いたこと、が淡々と綴られ、最後にお通夜と葬儀の日時・会場が書き込まれていた。

 浄土真宗の僧侶が3人で仏説阿弥陀経をあげる中、焼香が始まった。

 わたしたちの座席列が係員の案内で祭壇に向かう。わたしは三田くんの後ろに続く。

 祭壇に掲げられた満面の笑みのノネちゃんの写真。
 これは、いじめられる前の笑顔だろうか。

 席に戻る時、彼女の両親が会釈してくれた。
 場違いな年齢の2人に、”ミタ”、と、”アルジョ”、だと分かってくれたかもしれない。

 それから、教師と生徒たちだろう。同級生と思われる一団の席も目に入る。記憶の中のノネちゃんの表情と見比べる。
 ここにいる彼ら彼女らは単なる小学生の子供だ。
 幼いながらも、意思と人格を備えたノネちゃんの容姿とは比べるべくもない。
 すすり泣いている女の子も何人もいるけれども、幼子がぐずっているようだ。
 三田くんが、ぼそっと呟く。

「今頃、泣くなよ」

・・・・・・・・・・・・・


「ノネちゃんは結局、自殺した、ってことになるのかな」

 わたしはこんな残酷な質問をしてみた。
 ふっと顔を上げると、渋谷でも月が見えるってことに軽く驚いた。

”何も見つけられないままで 死にたくはない”

 彼女の心はこう反転したはずだったのに。
 その願いは遅すぎたっていうの?

 わたしは三田くんに問いかけているのか、それとも、もっと別の何者かに詰問しているのか、自分でも分からなくなった。
 三田くんがわたしに声を掛けて来る。

「Tower Record、寄ってかない?」

「10年前の曲なんて置いてないでしょ、もう」

「それでもいいよ」

 わたしの中で、Core of Soul がループしてる。
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