その11 哲学なんか、不要

文字数 703文字

「三田くん」

 教室の隅っこでわたしに呼び止められた彼は、相変わらず冷静沈着な表情をしている。

 言い換えると、冷たい表情。でも、わたしの好きな表情。

 わたしが歩き出すと同時について来てくれる。
 
 人の集まる、けれども互いの距離感は確保される場所。中庭に出た。
 ”正常な”生徒たちの中なら、ちょっとだけ異常なわたしたちが紛れると染まって目立たない。

「わたしのブログに午前4時に入ってたコメント、読んだ?」

「4時、じゃ読んでない」

「これなんだけどね」
 スマホを見せる。

 コメントのタイトル

”醜いことが、我慢ならない”

 全文

” イジメられてる人も、イジメてる人も、醜いかどうかが価値の基準。
 
 イジメを飯の種にしようとする輩は信用できない。美しくない。
 
 ある女子高生さん、もっとあなた自身のこと、書いて。

 私が判断してあげる (no name) ”


「長坂さんを敵視してるのかな?」

「”私”、って書いてるから、女の子?女性?かな、っていう気はするんだけど」

「ちょっと、怖いね。落ち込んでる?もしかして」

「落ち込みはしないよ。前に、”明日自殺します”、ってコメントしてた人もいたけど、”人それぞれですね”、って返信した。わたしの立場で掛けうる救いの言葉だと思ったから」

「その人、どうなったかな」

「分からない。今のこのコメントについて言えば、哲学的に美醜を基準にしてる部分が引っ掛かる。三田くん、わたしの顔見てどう思う?美人だと思う?」

「美人・・・ではないよね」

「わたしの性格は美しいと思う?」

「美しい、というよりは、刺々しさが特徴だよね」

「そういうことだよ。哲学じゃないんだよ」

 ぶつっ、と2人の会話は途切れた。



  
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