第2話 死闘! e-スポーツ「リタレスティック・バウト」!
文字数 1,332文字
天狗のように鼻の長い巨漢が、派手な羽飾りをつけた帽子を目深にかぶってレイピアを構える。
「天下無双の伊達男、月世界より只今まかり越して候!」
エドモン・ロスタン『シラノ・ド・ベルジュラック』の主人公だ。
禍々しい鎧をまとって長槍を手にした少女が、コウモリの羽を持つ悪魔をともなって現れる。
「ヌルいこと言ってんじゃないわよ!」
シェイクスピア『ヘンリー6世』に登場する、百年戦争のときのイギリスから見たジャンヌ・ダルクの姿だ。
無双の剣士シラノが、7人に分身する。
「
同じ姿が7つ、違う方向から男装の魔女に襲いかかる。
ジョアンに付き従う悪魔たちが、縦横に飛び交う。
「
悪魔たちに襲われたシラノの分身たちは、ことごとく消え失せた。
ジョアンにとって、悪魔たちはバリアーのようなものだ。
これを引き剥がしてしまえば丸裸……って、これはエロゲじゃない。
必殺技を使った瞬間なので、守る者もいなければ武器も使えない無防備の一瞬ができる。
そこが狙いだった。
シラノをダッシュさせて、突撃をかける。
ジョアンは長槍を投げ捨てると、シラノの腕を引っ掴んだ。
武器を投げ捨てれば、カウンターの投げ技を繰り出せるシステムになっているのだ、この格ゲーは。
シラノは鮮やかな背負い投げを食らって、画面の反対側まで投げ飛ばされる。
休憩時間の息抜きのはずが、とんだ真剣勝負になってしまった。
この勝負は、店の大スクリーンに映写されている。
僕たちの周りには見物客がぞろぞろ集まって、もう引っ込みがつかなくなってしまった。
店長までがやってきて、ニヤニヤしながら僕と美少女の対戦を眺めている。
さぞかし、いい宣伝になっただろう。
勝利宣言をひっくり返す技が、1つだけある。
画面上のシラノは、ぴくりとも動かなくなった。
そこへ、武器を手にしたジョアンが、悪魔たちをまとわりつかせて殺到してきた。
チャンスだ。
シラノが叫ぶ。
「
画面上に「
シラノが溜め込んだパワーが剣の衝撃波となって襲いかかってくるからだ。
だが。
「
代わりに叫んだのは、画面上のジョアンだ。
「
悪魔たちが一斉にとびかかってくる。
この必殺技が発動している間は、身動きひとつできない。
起死回生の技を封じられたシラノは、悪魔たちの餌食になった。