第10話 成功と代償と
文字数 1,188文字
佐藤が手を差し出す。
なぜその名を知っているのか尋ねる間もなく、佐藤はゲームセンターを出ていった。
紫衣里はというと、それとは一足違いで戻ってきた。
そこで思い出したのは、さっき感じた紫衣里の非難だった。
ただセルフサービスの食器を返しに行くだけの背中が、僕の視線を拒絶しているかのようにさえ感じられたのだ。
さっきまで、僕はいい気になっていた。
なにしろ、巨大コングロマリット「アルファレイド」傘下の大手ゲーム会社から来た開発者が、僕に注目しているのだ。
しかも、ゲームを挑んできたその相手を、僕は負かしてみせた。
これで、e-スポーツのプロに一歩近づいたといえる。あとは、専門学校でも腕を磨くだけだ。
でも、もう、それを素直に喜ぶ気持ちはなくなっていた。
いささか衝動的ではあったものの、そこそこ意を決して歩み寄った僕に、店長はかなり軽い調子で応じた。
上機嫌なのも無理はない。僕と佐藤の勝負を見物する客で、いつの間にか店はいっぱいになっていた。
しかも、その気になった客たちは、「リタレスティック・バウト」の順番待ちを始めている。
店長はまともに聞いていなかった。
その視線を追ってみると、その先には紫衣里がいる。
それとなく、僕の様子を見ていることは分かった。
別にそれは、構わない。今、紫衣里に対して恥ずかしくないことを、僕はしているつもりだ。
だが、今、それは問題ではなくなっていた。
用件をさっさと済まして、紫衣里を連れ出したかった。
問題は、もうバイトのシフトに入っている板野さんだった。
不愛想な返事だった。ちょっと責め立てるような口調で聞いたのがよくなかったのかもしれない。
だが、板野さんがいない今しか、話の出来るときはなかった。
紫衣里に聞かれるのもイヤだったので、店長の耳元で囁く。
非難されたからやることだと紫衣里に思われるのもシャクだったし、そう思われて軽蔑されるのもイヤだった。
だが、僕の一大決心は、あっさりと突っぱねられた。
僕が食い下がると、店長は改まった口調で、はっきりと言った。