第25話 戦いへの決断
文字数 1,393文字
午後10時には帰れるように、店長はアルバイトの勤務をさっさと終了させていた。
暗い田舎道を、僕は紫衣里にぴったり寄り添って帰った。
無言のままでいるのも気まずい思いがして、つい名前を呼んだ。
ぽつんと灯る街灯の下で、微かな笑みを浮かべた紫衣里は、僕と目も合わせずに言った。
これでも一応、男としてエスコートしているつもりだ。
そういう言い方はない気がする。
面白くないので、ちょっとムッとしてみせた。
だいたい、紫衣里は部屋でシャワーを浴びるのも僕の服を着るのも、好きなようにやっている。
白状すれば、それは確かに気にはなる。
だが、今日ばかりは邪念を払って、独りでじっと考えるつもりでいた。
部屋に戻ると、紫衣里はそう言うなり洗面所に消えた。
もともと1人用のアパートだから、居間との仕切りは半透明の扉しかない。下着はそこらに脱ぎ捨ててあるはずだ。
そっちから目を背けて横になった僕は、今までのことに思いを巡らせた。
一糸まとわぬ姿でシャワーを浴びている彼女が守るスプーン。
僕を守ってくれたけど、彼女を危機に陥れてもいる。
僕の金なんだから、当面の生活資金に充てたところで誰に恥じることもない。
いや……。
僕の服を物色しているらしい。
というか、僕から口を利くのはダメだけど、紫衣里からはOKらしい。
随分と勝手な言い草だ。
<リタレスティック・バウト・ワールドタイトルマッチ>。
店内に貼られたポスターには、今までネット上で見かけた顔がいくつもあった。
招待されているのは、世界的に活躍するプロのe-スポーツプレイヤーたちも招待されていた。
名前と顔写真、得意とするキャラクターを思うだけで、全身の血がたぎる。
その誘惑とも挑発ともつかない口調に、頭の中は余計に混乱する。
だが、そこで鳴り響いたスマホのコール音に、僕は我に返った。
画面を眺めてみると、店長からのメールだった。
星美ちゃん入院! ((( ;゜ Д ゜)))
8月いっぱいバイト入って!m(._.)m
板野さんの修学旅行がいつかは知らないが、自分で費用を稼ぐことは絶対に無理だろう。
だが、そこで僕の頭の中に閃くものがあった。