第26話 電話越しのマネーバトル!
文字数 1,699文字
あまりにも身勝手な要求だということは自分でも分かっていた。
佐藤が怒りだすのは覚悟していたが、電話の向こうから返ってきたのは思いがけない大爆笑だった。
強く出てはみたが、内心はドキドキだった。
こんなのは、紫衣里を人質にとった悪質なタカリにすぎない。
佐藤から返事がなかったので、当の本人の顔色をうかがってみる。
案の定、知らん顔だった。
やがて、何をしていたのか佐藤がようやくのことで返事をした。
痛いところを突いてきた。費用の出所がどうだろうが、板野さんは絶対に施しなど受けない。
良心に恥じることなく戦う理由がようやく見つかったと思っていたのが、逆に自分を追い込むことになってしまったのだ。
あまりのみっともなさに、思わず紫衣里がどんな目で僕を見ているか気になった。
やっぱり、知らん顔だった。
佐藤はというと、あくまでも事務的な口調で、しかし容赦なく僕を追い詰めてくる。
もし、ご了解の上でのご要望ということでしたら、恐喝罪が成立するかもしれません。
君が困っているなら、そうでなくても、君自身がそれに加担したということにならないように、一度アルファレイドの顧問弁護士に……。
話がひとまわり大きくなっている。
だが、どうしても、板野さんを見捨てることはできなかった。
しばらく経ってから、佐藤は怪訝そうに問い返してきた。
さらに話が大きくなったのに気付いて、一瞬、答えに困る。
だが、奨学金云々は僕が言い出したことではない。
……言ってしまった。深く考えもしないで。
だが、あてずっぽうではない。僕の直感がそう言っていたのだ。
e-スポーツのプレイヤーとしての。
それはまずい。
板野さんの通う高校が、別の旅行会社を使っていたら、全く意味がない。
さすがに僕もうろたえていたが、とりあえず、金華山の向こうにある私立学校の名前を挙げてみた。
電話が切れる。
3度目の沈黙が耐えきれなくて、僕はまた紫衣里のほうを見やった。
眩しい笑顔が返ってきた。どういうつもりか分からなかったが、気持ちだけは何だか楽になった。
そのうちに、スマホが鳴った。
そんなことはどうだっていい。結論が聞きたかった。
思いっきり不機嫌な返事は芝居でも何でもない。
僕は本気でイラついていた。
そう、美談のように聞こえなくもないが、これはあくまでも取引なのだ。
僕の優勝を条件とした……。
そこで僕は、背中に押し付けられる柔らかい胸の感触に気付いた。
振り向くと、しがみついてきた紫衣里が顔を寄せていた。
紫衣里は真っ赤になって、僕をうつ伏せに突き飛ばした。