第15話 流浪の一族
文字数 1,608文字
深刻な問題だった。
僕たちがいつまで一緒にいられるかは、そこに懸かっている。
紫衣里は、さらっと答えた。
いきなり話がそっち方面へ飛んで、僕はうろたえた。
男でも頬が赤くなるようなことを口にしておいて、紫衣里は平然と話を続けた。
女の子に守られたスプーンが、世界中にいくつあるのかは知らない。
だが、決まった年齢の女の子にそれを引き継ぐには、相当しっかりしたネットワークが必要だ。
ずっと紫衣里のそばにいた、やたらゲームの強いあの爺さんのことが思い出された。
「リタレスティック・バウト」の対戦中に見せた、あの燃えるような瞳は恐ろしかった。
あれは一度見ただけだったが、その後も何かの拍子に眼前に浮かんで身体をすくませたものだ。
憎しみと畏敬の入り混じった、不思議な口調だった。
紫衣里の話を総合すると、あのスプーンを守るために生まれ、成長し、子を産み育てることを宿命づけられた少女がいるということだ。
そのサイクルを守るために、「鬼」と呼ばれる老人たちは少女の前に現れるのだろう。
あのスプーンを携えて。
自分でも、声が怒りに震えているのが分かった。
人生を、そんなことのために使われている女の子たちがいる。
勉強したり、遊んだり、恋をしたりすることも知らないで……。
笑みをたたえてきっぱり答える紫衣里に、思わず拍子抜けした。
人生の全てを縛られた少女を、何が何でもあの爺さんから解き放つつもりだったのだ。
e-スポーツで、自分でも信じられないような真似ができたのだ。
頭は冴えわたり、手は思い描いたままに動く。
いいことに使えばそれなりに人の役に立てることだろう。
だが。
紫衣里は、ため息混じりに答えた。
そこには、この世の全ての悪に対する、諦めにも似た許しの響きがあった。
あのスプーンを欲に駆られて鳴らすと、ろくでもないことになるらしい。
その言葉の裏には、僕の想像をはるかに超えた苦しみに耐えてきた者の矜持があった。
あのスプーンを守り通すことは、紫衣里にとって人生を賭ける価値のあることなのだ。
すると……。
ぷいとそっぽを向くなり、紫衣里はそのまま床でころりと横になった。
さっきの毅然とした態度が嘘のような横着さである。
だが、恐ろしい宿命を持つ人々の話を聞いてしまった僕には、もうそれを咎める気も起こらなかった。
しばしの重い沈黙が、狭い部屋を抑えつけた。
女の子は、難しい。誇り高いときがあるかと思えば、心の深い所を開いてみせるときもある。
だが、それに甘えて踏み込んだりすると、その先は侵すべからざる秘密の聖域だったりもするのだ。
その奥から、微かな囁きが聞こえた。