第41話 貴公子の新たなる挑戦
文字数 1,507文字
名前が出てこない。
思い出そうとしてしばらく眺めていると、向こうから名乗ってくれた。
そうすることにしよう。
あの試合のときは、もう会うこともない相手だと思っていた。
だが、こんな田舎まで僕を探してきた以上、知らん顔もできない。
やはり、金とヒマのある人は違う。
名前からすると、古い家柄の高貴なお坊ちゃんといったところだろう。
金もヒマもあってうらやましいことだ。
実際、彼の後ろには執事っぽい人まで付き従っている。
ハンコをついた店長が受け取ったのは、大きな包みだった。
それを前に、いちいち思い出すのも面倒臭くなるほど名前の長い貴公子は、僕を見据える。
手土産にしては、大げさすぎる。本当に金遣いの荒いお坊ちゃんだ。
内心では呆れながら、包みを受け取ってほどいてみる。
3000万円の小切手だった。
あの<リタレスティック・バウト>のプロ賞金と同額の……。
僕が司会者に優勝の辞退を告げてその場を駆け去ったとき、人混みをかき分けて佐藤がステージへすっ飛んでいくのが見えた。
その後のことはよく知らない。
次の日、バイト先で分かったのは、このエセルバート・ウィルフレッド=ヒュー・スウィンナートン4世が繰り上げで優勝扱いになったということだけだ。
まるで双剣を携えて立ち向かってくるような勢いで、両の手が突き出された。
そこには、ミイラ化と思えるほどにやせ細った、骨と皮ばかりの手があった。
多分、重い病気に冒されて、身体が衰弱しきっているのだ。
なぜ、試合が終わるとすぐに姿を消してしまったのか、これで分かった。
どこかで安静にして、消耗された体力を少しでも回復しなければならなかったのだ。
そんな身体でなかったら、e-スポーツに家系の名誉と人生を賭けたりはしないだろう。
見方を変えれば、これは日本円にして何億という賞金を懸けたギャンブルだ。
だからこそ、日本ではプロしか賞金がもらえない。
優勝したら、それは彼が手にして当然なのだ。
だから、日本のe-スポーツは、アマチュアへの賞金が外国と比べて信じられないくらい少ないのだ。
だが、誇り高いエセルバート・ウィルフレッド=ヒュー・スウィンナートン4世は引き下がらない。
不敵に笑うと、拾い上げた小切手を僕に突きつけた。