第34話 君は美しい……が?
文字数 1,531文字
準決勝は、休憩抜きに始まった。
好都合だった。まだ日は高い。
準決勝のステージに立った僕は、主催者の進行に感謝した。
対戦相手はどうにもならないのだから、せめて試合だけは早く進めたかった。
ウジェーヌ・フォーコンプレとかいうこのコスプレ男、何を言ってるのかさっぱり分からなかった。
ただ、僕を見つめるその目には何か、背筋を凍らせるものがあった。
恐怖とは、別の意味で。
それを振り払おうと、試合開始と共に僕は叫んだ。
こいつと、さっきの瞬殺プレイヤーを倒せば、板野さんの望みが叶う。
「知らざあ言って聞かせやしょう……」
日本の歌舞伎『白波五人男』に登場する、女装の美少年盗賊が吐く名セリフだ。
まず、イニシアティブをとることだ。
そこで8連突きを3度見舞ったが、弁天小僧は傘を開いて全て防いでしまった。
「浜の真砂と五右衛門が」……。
石川五右衛門の辞世、「石川や浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」を踏まえたものだ。
よく覚えたものだと思うが、こいつ、多分意味は分かっていない。
いずれにせよ、余裕を見せた分、隙ができた。
すれ違った背後から、シラノは4連斬りのクリティカルヒットを食らわせた。
その場で、第1ラウンドは終了した。
余裕たっぷりのコスプレ男、ウジェーヌ・フォーコンプレが何を言っているのかは、やっぱり分からなかった。
分かったのは、第1ラウンドがただの小手調べだったということだ。
傘に仕込まれた刀が一度襲いかかってくると、こちらの剣がなかなか繰り出せない。
再びさっきの8連突きで押し返そうとしたが、今度は傘をくるくる回して受け流す。
シラノと菊之助の姿が何度か交差したときだった。
「それから」……。
「若衆の
傘に隠れた女装の幻影を残して、弁天小僧菊之助の必殺技が効を奏する。
褌一丁の美少年が仕込み刀で、いつの間にかシラノを真っ二つにしていた。
やられた。見事な仕返しだった。
このコンプレだとかコスプレだとかいうヤサ男、なかなかに侮れない。
3ラウンド目は、一瞬の気の緩みでさえ許されないだろう。
「名せえゆかりの弁天小僧菊之助たあ……」
ここで大見栄を切るときが勝負だった。
「俺がことだあ!」の一言と共に取ったポーズで、すさまじい衝撃波が端正な姿を襲う。
もちろん、それはシラノのものではない。
恋敵にして親友である別のプレイヤーキャラクター、クリスチャンのものだ。
因みに、こういうサブキャラでもプレイできるのが<リタレスティック・バウト>の面白いところだ。
菊之助の笠が吹き飛び、無防備の身体をシラノの剣が貫く。
勝敗は、これで決した。
会場全体がドン引きする空気が、肌に伝わってくる。
このコス……コンプレ君の祝福のキスを頂戴した僕は、どうリアクションを取ったらいいのだろうか。