第21話 男と男の静かな闘い
文字数 1,160文字
こいつと紫衣里が直に口を利くなんて、我慢がならない。
だが、佐藤はわざとらしく手を叩いておどけてみせた。
麺をすすり始めると、僕にはもう、返事もしない。
そこへ、フードコートのアナウンスが入った。
紫衣里もそろそろ「エネルギー切れ」のようだった。
正直、少しの間であっても佐藤と2人きりにはしたくなかった。
だが、ここで倒れられるのも面倒だ。
そう言い残して、僕はカウンターへ向かった。
もっとも、どっちにそう言ったのかは自分でも分からない。
とにかく、出来上がったハンバーガーと大盛りの中華丼を受け取らなければならなかった。
だが、慌てて戻ってきたときにはもう遅かった。
まだワンタンメンをすすり込んでいる佐藤は、再び紫衣里を落としにかかっていた。
だが、幸か不幸か、銀のスプーンの守護者はテーブルにべったりと突っ伏している。
テーブルに大盛りの中華丼を置いてやると、紫衣里の手はのろのろと動いた。
丼を引き寄せると、震える手でレンゲを掴む。超スローモーションの映像でも見せられているかのような鈍さで、紫衣里は餡のかかった飯をゆっくりと口に運んだ。
そして。
佐藤の喉がごくりと動いたのは、麺と息のどちらを呑み込んだせいだろうか。
そのいずれにせよ、知らない人が見たらすくみ上ってしまうほど、紫衣里の食いっぷりは凄まじかった。
皮肉たっぷりに言ってやると、僕はハンバーガーをかじった。
これで財布の中は完全に空になっている。給料日はまだ先だから、貯めた12万円に手をつけるときがそろそろ来たようだった。
佐藤は丼の中のスープを一気に飲み干すと、僕に向かって用件を口にした。
なんて変態どもだ。女の子の名前を調べ上げて、こそこそ世界中に追いかけ回しているなんて。
こんな連中の助けを借りてe-スポーツのプロになろうとしていたのが、たまらなく恥ずかしくなった。