第22話 平凡な名前の男が語る熱い想い
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さらりと答えたのにはイラっときた。人をバカにするにもほどがある。
僕には紫衣里しかいないのに、こいつは日本にいれば誰でもよかったと平気で言ってのけたのだ。
努めて冷ややかに告げたつもりだったが、その皮肉に佐藤は動じた様子がない。
むしろ、声を低めてきっぱりと言い切った。
紫衣里と会ってから、その一言は僕にとっても身近なものになっていた。
この夏は、彼女のために人生を選択する時だという気になっていたのだった。
佐藤の話はといえば、さらに熱を帯びてきた。
澄んだ音で頭の中の火花がスパークした、あの時の感覚はよく覚えている。
僕は医療関係のことなど全然知らない。だが、あれが錯覚でないなら人のために使わない法はないということだけは見当がついた。
そう言わないと、突っぱねる理由がなかった。ひどい侮辱だとは思ったが、これで佐藤が機嫌を損ねて帰ってくれればもうけものだ。
だが、帰ってきたのは平然とした一言だった。
言っていることは割と真っ当なのだが、だからといって「はいそうですか」と応じる気にはなれなかった。佐藤は、さらに熱く語りはじめる。
いつのまにか、紫衣里は大盛りの中華丼を食べ終わっていた。
澄んだ瞳で、佐藤をまっすぐ見つめている。
だが、返ってきたのは、声音こそ柔らかいが愛想のない一言だった。