第8話 運命の12万円
文字数 1,134文字
うまい具合に、もう昼食時間だった。
例のフードコートで、僕は紫衣里と差し向かいで軽い食事を取った。
そうしないと、間がもたなかったのだ。
目の前のヤキソバ1杯が、その時間を保証してくれている。
因みに、紫衣里のは大盛りで。
僕はというと、ああいう話の後では、たかがヤキソバ1杯でも食欲が湧かない。
僕はというと、ああいう話の後では、たかがヤキソバ1杯でも食欲が湧かない。
実は、僕には板野さんを救う手段があった。それを使うか使うまいか、僕は悩んでいたのだ。
あっと言う間に一皿平らげた紫衣里が、不意に口を開く。
あっと言う間に一皿平らげた紫衣里が、不意に口を開く。
僕の皿を手元に引き寄せると、ものすごい勢いで麺を啜る。
現実逃避したい気持ちもあって、僕は腹の中であの老人に八つ当たりした。
どういう事情があったか知らないが、これだけ食う娘を連れて歩くというのは並大抵のことではできないだろう。
それだけ言って、紫衣里は食器を返しに行く。
彼女の言葉は、非難にも聞こえた。
こう言われた気がしたのだ。
そう、僕のやっていることは、板野さんに比べたら、かなり温い。
僕が親に背いてe-スポーツのプロになるため、専門学校進学費用として貯めたのは、12万円。
板野さんの修学旅行費用も、ちょうどその額らしい。
高校卒業に間に合うかどうかが問題だった。
いきなり声をかけられて、僕はびくっとした。あの老人かと思ったのだ。
だが、目の前にいたのはスーツ姿の朗らかな青年だった。
だが、目の前にいたのはスーツ姿の朗らかな青年だった。
紫衣里が行ってしまったほうを振り向いてみたが、その姿はどこにも見えなかった。
差し出された名刺を見て、はっとした。
偽名にはもってこいの、いちばん平凡で、そして忘れやすい名前だった。
だが、僕の目を引きつけたのは、そこではない。
対戦型ゲーム「リタレスティック・バウト」に関することは、巨大コングロマリット「アルファレイド」の下で運営されている。
案内しようと、そそくさ立ち上がる。
そこで、紫衣里がまだ戻っていないのに気が付いて慌てた。
だが、青年は僕に用があったらしい。
そこには、不敵な挑戦の響きがあった。