第9話 2人のガスコン
文字数 1,082文字
それから間もなく……。
階下にあるゲームセンターの大画面では、フランスの銃士隊長ダルタニャンが、同じガスコーニュ出身のシラノ・ド・ベルジュラックと剣を交えていた。
名前が平凡な割には、手強かった。そこはやはり、ゲーム開発部門のひとりだということだろう。
だが、その佐藤一郎も唸った。
その賞賛は、挑戦の一言でもあった。
全く同じ姿勢で、ダルタニャンはシラノと向き合った。
まるでダンスでもするかのような至近距離だ。
2人のガスコーニュ男は、同じ技を持っている。
ダルタニャンは、それをほとんど同時にぶつけてきたのだ。
そのわずかな時間の差が、闘いの攻守を分けた。
縦横に振るう剣が、泣く子も黙る国王陛下の銃士隊長の体力ゲージを見る間に下げていく。
だが、思わぬ反撃が待っていた。
長いマントを跳ね上げたダルタニャンが、シラノの剣を押し返しはじめたのだ。
突進が、シラノの連続剣を止めた。
シラノは防御の姿勢を取ったまま、体力ゲージが低下するのに任せて立ち尽くすしかない。
画面後方まで跳ね飛ばされた剣は、取りに行けないこともない。
画面の端に押し込められて、ろくな防御もできないままに切り刻まれる。
それを狙って仕掛けられたのが、この捨て身の攻撃だ。
ダルタニャンを操作しながら、佐藤は余裕の勝利宣言をする。
だが、僕もそう簡単にはやられるつもりはなかった。
シラノが、高々と跳躍する。
攻撃は避けられるが、地に足がつく前に捕まってしまったら、画面に宙づりのままで連続突きを受けることになる。
これも一か八かの賭けだった。
興味津々の返事だった。
楽しみにしてもらっている以上、期待には応えなくてはならない。
それが、僕の目指すプロの姿だ。
ちゃんと、見せ場は最後までとってある。
ダルタニャンの頭上から、剣を逆さにシラノが降ってくる。この不意打ちで、勝負はついた。
防御の姿勢も取れないまま、誇り高き銃士隊長は剣を高々と掲げて、その場に崩れ落ちた。