第9話 2人のガスコン

文字数 1,082文字

 それから間もなく……。

 階下にあるゲームセンターの大画面では、フランスの銃士隊長ダルタニャンが、同じガスコーニュ出身のシラノ・ド・ベルジュラックと剣を交えていた。

……強い!

 名前が平凡な割には、手強かった。そこはやはり、ゲーム開発部門のひとりだということだろう。

 だが、その佐藤一郎も唸った。

やりますね……。

 その賞賛は、挑戦の一言でもあった。

見てろ……!
 ダルタニャンの剣を払ったシラノが、その胸元まで飛び込む。
そう来ますか!
これが()……。
……故郷の魂(テスプリ・ド・ガスコン)

 全く同じ姿勢で、ダルタニャンはシラノと向き合った。

 まるでダンスでもするかのような至近距離だ。

な……!

 2人のガスコーニュ男は、同じ技を持っている。

 ダルタニャンは、それをほとんど同時にぶつけてきたのだ。

こういうこともできるんですよ。
勉強になりました……もう一瞬早かったらね!

 そのわずかな時間の差が、闘いの攻守を分けた。

 縦横に振るう剣が、泣く子も黙る国王陛下の銃士隊長の体力ゲージを見る間に下げていく。

 だが、思わぬ反撃が待っていた。

 長いマントを跳ね上げたダルタニャンが、シラノの剣を押し返しはじめたのだ。

 

不死身の一撃(クー・パンヴュルネラブル)

 突進が、シラノの連続剣を止めた。

 シラノは防御の姿勢を取ったまま、体力ゲージが低下するのに任せて立ち尽くすしかない。

こんな……かわせない!
どうなさいますか? このままゲームオーバーを迎えますか?

 画面後方まで跳ね飛ばされた剣は、取りに行けないこともない。

でも、それをやったら……。

 画面の端に押し込められて、ろくな防御もできないままに切り刻まれる。

 それを狙って仕掛けられたのが、この捨て身の攻撃だ。

これを凌ぐのは、かなり難しいかと。

 ダルタニャンを操作しながら、佐藤は余裕の勝利宣言をする。

 だが、僕もそう簡単にはやられるつもりはなかった。

でも……不可能じゃない!

 シラノが、高々と跳躍する。

 攻撃は避けられるが、地に足がつく前に捕まってしまったら、画面に宙づりのままで連続突きを受けることになる。

 これも一か八かの賭けだった。

ほお……。

 興味津々の返事だった。

 楽しみにしてもらっている以上、期待には応えなくてはならない。

 それが、僕の目指すプロの姿だ。

 ちゃんと、見せ場は最後までとってある。

月からの墜落(トンベ・デ・ラ・リュヌ)

 ダルタニャンの頭上から、剣を逆さにシラノが降ってくる。この不意打ちで、勝負はついた。

 防御の姿勢も取れないまま、誇り高き銃士隊長は剣を高々と掲げて、その場に崩れ落ちた。

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登場人物紹介

長谷尾英輔(はせお えいすけ)

e-スポーツのプロを目指す公立高校3年生。

親からの仕送りを止められ、ゲームセンターでのアルバイトをしながら下宿生活を送っている。

情に脆く義理に厚いが、優柔不断でちょっとムッツリスケベ。

長月紫衣里(ながつき しえり)


幸運をもたらす銀のスプーンを豊かな胸元に提げた美少女。

無邪気で自由奔放、大食らいで格闘ゲームが妙に強い。

長谷尾の優柔不断を、要所要所でたしなめる。


板野星美(いたの ほしみ)


つらい過去を抱えた私立高校2年生。

ささやかな望みを叶えるために、禁止されているアルバイトをこっそりゲームセンターでやっている。

意志も意地も強い努力家で、つい無理をしてしまうところがある。

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