第31話 e-スポーツもグローバルに

文字数 1,100文字

 残った8人のうち、4人までが外国からの招待選手だった。

 プレイヤーとしては、こういう機会に交流を深めるものなのだろう。

 だが、僕は英語がそれほど達者ではない。

 ましてや、そのほかの外国語となれば、相手が交流を求めてきたときにどうすることもできない。

 そこで驚いたのは、代わりに紫衣里が外国人選手の応対をしてくれたことだった。

 

Hi,you are pretty. Are you……by any chance ,a girlfriend of Haseo?

(あら、かわいい。あなた……もしかしてハセオの彼女?)

 ドキッとするほど色っぽい大人の女性の一言を、紫衣里は物怖じすることなく受け流す。

I'll leave it up to your imagination.

(ご想像にお任せします)

 たぶん、僕の彼女かと聞かれて、はっきりとは答えないで済ませたのだろう。

 確かに「そうだ」と言われても照れ臭いが、言い切ってもらえないのも、何だか寂しい気がした。

Quand tu auras fini, pourquoi tu ne s'en sortirais pas avec moi ?

(これ終わったら、僕と付き合いませんか?)

 もっと分からなかったのは、これまた微妙な感じの優男だった。

 妙に馴れ馴れしい感じで、声をかけてきた。

Je suis désolé, j'ai un engagement antérieur avec lui.

(ごめんなさい、この人と先約があるんです)

 ナンパっぽい響きの言葉だったが、紫衣里は何やら丁重に断ったらしい。

 だが、相手は笑顔で食い下がってきたようだった。

Non, avec l'homme d'à côté.

(いえ、お隣の男性とです)

 そこで急に、紫衣里の顔が険しくなった。

 背筋を伸ばして、きっぱりと言い放つ。

Il est fiancé avec moi.

(彼とは婚約してるんです)

 何と言ったのかはよく分からなかったが、優男は一瞬、怯んだ。

 やがて、寂しげな笑みを浮かべると、一言だけ残して去っていった。

Heureux avec vous.

(お幸せに)

 ただならぬ空気にちょっと腰が引けたが、一応、聞いてみることにした。
……何て言ったの?
 紫衣里は、困ったような、それでいて照れくさそうな、それでいてどこか冷めた何とも言えない複雑な表情を浮かべて言った。
……知らないほうがいいと思う。

 そうこうしているうちに、準々決勝が始まった。

 僕は紫衣里を客席最前列に座らせて、巨大なスクリーンに<リタレスティック・バウト>のデモ画面が流れるステージへと駆け上がった。

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登場人物紹介

長谷尾英輔(はせお えいすけ)

e-スポーツのプロを目指す公立高校3年生。

親からの仕送りを止められ、ゲームセンターでのアルバイトをしながら下宿生活を送っている。

情に脆く義理に厚いが、優柔不断でちょっとムッツリスケベ。

長月紫衣里(ながつき しえり)


幸運をもたらす銀のスプーンを豊かな胸元に提げた美少女。

無邪気で自由奔放、大食らいで格闘ゲームが妙に強い。

長谷尾の優柔不断を、要所要所でたしなめる。


板野星美(いたの ほしみ)


つらい過去を抱えた私立高校2年生。

ささやかな望みを叶えるために、禁止されているアルバイトをこっそりゲームセンターでやっている。

意志も意地も強い努力家で、つい無理をしてしまうところがある。

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