第35話 守護天使のお告げ
文字数 1,368文字
ステージから下りた僕を、紫衣里はニヤニヤ笑いながら出迎えた。
コスプレ君の唇が触れた辺りが、鈍く疼く。
ハンカチでごしごしやっていると、今度は摩擦でヒリヒリしてきた。
話の流れからすると、期待できるものは1つしかない。
それを紫衣里の口から聞き出せないかと思案を巡らせているうちに、僕の肌が危機の襲来を継げていた。
紫衣里がさっさとコスプレ君を座らせたのは、隣の席だった。
席指定がされているわけではなおが、僕の了解は必要だったかと思う。
さっきのアレは、見ていたわけだから。
微笑んで言うことが、口説き文句にしか聞こえない。
紫衣里は紫衣里で、僕のフォローをしようともしなかった。
いたずらっぽく輝く瞳が、このコスプレ男に向けられている。
こいつの趣味がアレなんだとしても、何だか面白くなかった。
真剣なまなざしを向けられて、思わず鳥肌が立った。
性的嗜好への偏見はどうとかこうとか言われても、僕は当事者として選ぶ権利がある。
たとえば、目の前に紫衣里と板野さんがいたとしたら、当然……。
板野さんの、一生に一度のささやかな願いを叶えるのだ。
後ろめたいことなど、あるはずがない。
だが、僕は何故かたじろいだ。
何やらコスプレ君は大笑いして、立ち上がった。
準決勝の次の試合がコールされる。
妙に意味深な様子に見えたので、気になって聞いてみた。
紫衣里はというと、神妙な顔をして答えた。
そうかもしれない。
紫衣里が僕の守護天使なのだとしたら、どんな答えであれ、自分で出したものを尊重してくれるだろう。
観客席が一斉に湧く。また、瞬殺で勝負が決まったのだ。
あの男と、僕は戦うことになる。
決勝戦を控えて、会場内には10分間の休憩を告げるアナウンスが響き渡った。
その10分でも、僕には惜しい。