第14話 少女たちの恥ずかしい秘密
文字数 1,681文字
思わず吹き出した。
今さら言われるほどのことでもない。
紫衣里は怒りだしたが、別に畏まることもない気がした。
今までいろんなことがあったのだ。
これ以上、何を言われようと驚くことはない……たぶん。
また、分かり切ったことを言う。
それなのに、どうも話がちぐはぐな気がした。
でも、どこがどう噛み合わないのか分からない。
機嫌を損ねるかと思ったが、紫衣里は悪戯っぽく笑った。
それだけに、僕は思わず息を呑んだ。腹に一物あるような気がしたのだ。
努めて平静を装ってはみたが、自分でも顔が引きつっているのがわかった。
どうしてどうしてこの娘、人の気持ちをなかなか巧みに振り回してくれる。
僕たちは、しばらく笑顔で見つめ合った。
僕は紫衣里の腹の内を探っていたのだが、紫衣里のほうはたぶん、僕の度肝を抜くために呼吸を図っていたのだろう。
やがて、その「普通じゃない」少女は、ようやくのことで口を開いた。
どうもしない。
僕の人生は終わりだ……いろんな意味で。
確かに紫衣里は可愛いけど、同じ顔がいくつも目の前に並んでいたら、僕は引く。
いや……これだけ食う娘があと何人もいたら、とても養えやしない。
中東のハーレムがなぜ生まれたか、何となく分かった。
あれは、財力のある男が女たちの面倒を見るシステムなのだ。
僕が一瞬で考えたことをどこまで察したのかは知らないが、紫衣里は笑いをこらえながら言った。
誤解でよかった。これで話を冷静に聞ける。
最初に聞いておかなくちゃいけないことだった。米櫃が空になる前に。
こんなかわいい子と2人きりで暮らせることに、有頂天になっていた僕がバカだったのだ。
自分自身と紫衣里のこれからを思って、僕はため息をついた。
おもむろに頷いた謎の美少女は、再び豊かな胸元に手をやった。
もっとも、その谷間に吸い込まれるような目など、もはや持ち合わせてはいない。
僕の目の前で揺れているのは、あの銀色のスプーンだった。
その向こうには、まっすぐな目をした紫衣里の笑顔がある。
何となく、事の次第が分かってきた僕は居住まいを正した。
シラノを操る僕の反応速度をこれまでになく高めたあの音が、脳裏によみがえる。
間違いなく、このスプーンの音だ。
ただのお守りなわけがない。
傍から聞いたら何のことやらさっぱりだろう。
だが、僕の心は疼いていた。
紫衣里は笑顔のままだ。だが、見れば分かる。
その奥には、何か言葉にできないことが潜んでいた。
紫衣里はおどけてみせたが、たぶん、腹が減るどころの問題じゃない。
今朝のアレは尋常じゃなかった。放っておいたら、死んでしまうんじゃないかと思ったくらいだ。
キッと睨まれて、僕はすくみ上がってみせた。
図星を突かれたらしく、結構、本気でムキになっている。やっぱり、そこは女の子だ。
たかがスプーン1つとはいえ、あれだけの力を持つ代物だ。
持ち歩いて、タダで済むわけがない。たぶん、物凄い体力と精神力を消耗するのだ。
紫衣里の大食らいは、それを補うためのものなのだろう。