第38話 夢の終わり
文字数 1,545文字
まるで『ハムレット』の中のセリフだ。
それならば、僕も受けて立つしかない。
彼に、一度見た技は通用しない。
フィービーに使った技が、その瞬間に読まれるのは計算のうちだった。
レイアーティーズの振り上げた剣が、落下の勢いを伴って降ってくる。
その技が決まるか決まらないかのときに、僕の狙いがあった。
その時の隙が、いちばん大きい。
マントでフェイントをかけたのは、大技を使わせて、このチャンスを掴むためだ。
だが。
間に合わなかった。
レイアーティーズの剣を真っ向から浴びたシラノの脳天から、血飛沫がほとばしる。
頭上の窓から材木を落とされるという、原始的な罠で致命傷を負った原作と同じように。
急に、目の前の相手が大きく見え始めた。
本当に戦っているのは画面の中のレイアーティーズだ。
だが、それを操るプレイヤー自身が、双剣を手に僕のほうへと歩み寄っているような気がする。
それはライバルとしての、叱咤の言葉だった。
だが、指が動かない。
これほどの使い手を前に、小賢しいトリックを使おうとした僕がバカだったのだ。
いや、この大会に臨んだこと自体が思い上がりだったのかもしれない。
信じられないことだが、たかが指一本が動かなかった。
凄まじい速さで双剣を振るうレイアーティーズの猛攻を前に、防御の姿勢を取るのが精一杯だった。
しかし。
涼しい音が微かに聞こえる。
そう言いながらも、身体の中に燃え上がった何かを抑えることはできなかった。
僕の意識の奥底に眠る獣が、目を覚ます。
自分でも何をやっているのか分からないままに、シラノ・ド・ベルジュラックが動き出す。
防御しても出遅れた分、ダメージは大きい。でも、起死回生の技はある。
シラノが羽根帽子を跳ね上げると、包帯を巻かれた血染めの頭が剥き出しになった。
そこを狙って、レイアーティーズも反撃に出る。
攻守は逆転した。
この技は、体力がなくなる寸前の状態でしか使えない。
そこを見切らなけれえば使えない分、威力は絶大なのだ。
決死の剣に貫かれたレイアーティーズが、ばったりと倒れる。
最後の力を使い果たして崩れ落ちたシラノの身体の上に、ふわりと羽根帽子が落ちてきた。
わっと賞賛の歓声が上がる。
そのとき、夢のような死闘の終焉に酔いしれていた僕は我に返った。
その姿はもう、観客席にはない。
白いブラウスの少女を探して、僕はステージから飛び降りた。