第23話 フードコートファイト!
文字数 1,438文字
穏やかな言い方だったが、これは明らかな挑発だった。
アルファレイドはあくまでも複合企業体であって、慈善団体ではないのだ。
もっとも、そこは佐藤も営業屋である。
一歩も引けないところを、やんわりと押し返してみせる。
ところが紫衣里の目つきは、急に険しくなった。
いつになく低い、凄みのある声だった。
それでも、佐藤は怯んだ様子もない。
僕に関係する話を、本人を脇に置いて険悪な雰囲気の中で交わされてもリアクションに困る。
そこでようやく、佐藤は僕に水を向けた。
ますますわけが分からない。それと紫衣里と、どういう関係があるのか?
僕がその申し出の真意を掴みかねているのを見て取ったのか、佐藤はあの慇懃な口調で告げた。
残念だが、その申し出はちょっと遅かった。
僕にもう、その気はない。
だが、どうしたわけか、即答でNOの返事をすることはできなかった。
情けない話だったが、僕は紫衣里がきっぱり協力を断ってくれるのを期待していた。
ところが、ちらりと見やった先では、紫衣里があさっての方向を眺めている。
その先には、さっき佐藤がワンタンメンを注文した中華料理の店があった。
呆れるほど分かり易い買収だった。
さっき佐藤が申し出た取引と比べたら、問題にならないくらいに稚拙なやり方だ。
まともに考えたら、バカにするなと一蹴するところなのだが……。
もう笑うしかない僕のツッコミを後にして、佐藤はそそくさと食券を買いに行った。
残された紫衣里は、今度は黙ったまま、隣の席からじっと僕を見つめている。
そういうなり、紫衣里はものすごい勢いで大盛りのラーメンをすすりはじめた。
さっきの質問に、僕はまだ返事できないでいるのに。
佐藤は席に着こうともしないで、僕を見つめている。返事を急かしているのだろう。
銭金の問題じゃなかった。僕の身体の中で、熱いものが駆けめぐっている。
もとより、佐藤と取引なんかする気はない。そうなれば、これは挑戦だった。
世界のプレイヤー相手に勝ち抜いてみせろという……。