第4話 大鼻の剣士と大ぼら吹きの男爵と
文字数 1,212文字
老人が操るのは、耳元の髪を盛大にカールした、鉄帽子の痩せた爺さんだった。
ビュルガー『ほら男爵の冒険』の主人公、ミュンヒハウゼン男爵である。
画面のあちこちに現れては消え、シラノの死角からサーベルを振るう。
ミュンヒハウゼン男爵と交差したシラノはダメージを受けながらも、あさっての方向へ剣の連撃を縦横無尽に繰り出す。
「
ほら男爵は姿のない相手に正面から不意打ちをくらって、その場に倒れる。
まずは1勝だった。
第2ラウンドが始まるなり、ほら男爵の「猛攻」が始まった。
地面に潜って足を引っ張り、空中から大根やニンジンの雨を降らせ、シラノを翻弄する。
その都度、反撃はするのだがカウンターで食らうダメージも半端ではない。
結局、画面には「TIME UP!」の文字が浮かんだ。
お互いの体力は、ゲージの端ぎりぎりまで減っている。
だが、コンピューターは、その僅かな差でミュンヒハウゼン男爵の勝利を告げた。
目が、真っ赤に燃えている。まるで、悪魔か魔神のように。
一瞬、恐怖で指先ばかりか、身体までが凍りついた。
澄み渡る音がゲームセンターの騒音を鎮め、濁った空気を浄化したような気がした。
耳の中で鳴り響く涼やかな音……。
「