第1話 銀のスプーンを目の前に
文字数 1,058文字
バイトのシフトが空いた僕は、勤めているゲームセンターの筐体に向かった。
貴重な息抜きの時間を余すことなく使い切るため、コインを額に当てて念を込める。
その一言が、ゲームに立ち向かおうとする僕の集中を解いた。
対戦コンピューターのレベルは「MAX」。
最高の難易度で相手を秒殺しようと狙う僕にとって、それは時間とバイト料の浪費を意味した。
唐突な申し出を受けてしまったのは、僕の意地のせいとしか言いようがない。
そんな理屈をつけてでも一緒にいたいと思えるほど、目の前の女の子が可愛かったせいもあるけど。
岐阜市近郊のショッピングモールに、最近できたゲームセンターがある。
その名は「フェニックスゲート」。
大手ゲーム会社の経営で、巨大資本「アルファレイド」の傘下にある。
小さいものは梅仁丹、大きなものは月に届く軌道エレベーター(企画段階らしいが)まで手掛けようかという世界的コングロマリットだ。
そう警告したのは、アーケードゲームとはいえ、女の子を一方的にぶちのめすは気が咎めたからだ。
僕は貴重な100円を筐体に放り込んで、ゲームを開始する。
古今東西の文学作品に登場するヒーローたちが、それぞれの武器を振るって激闘を始める。
最初のラウンドは、1分も経たないうちに僕の勝利に終わった。
エレクトロニック・スポーツ、略してe-スポーツ。簡単に言えば、スポーツ化した対戦型コンピューターゲームだ。プロだっている。
いつか僕……
そんなことを夢見るくらい、僕は真剣だった。
女の子は筐体の向かいに座り込んだところで100円を投入したらしく、ゲーム画面には「挑戦者現る」の文字が浮かぶ。
別に、彼女のプロポーションに見とれていたわけじゃないし、僕の視線が誤解されたわけでもない。