ここから始まるものがたり-中編-
文字数 4,404文字
もうすぐ師走の声も聞くというのに。
赤く色づいた桜の葉の間からこぼれてくる、秋の陽射しは暖かい。
そんな校門前で待っていると、急坂をゆっくりと登ってくる、待ち人の姿が見えてきた。
おはようの代わりに「今日みたいな日を小春日和っていうんでしょ」と笑えば、大好きな人が「よく覚えてました」と頭をなでてくれる。
小学生のころはそれが嬉しくも残念だったけど、今は同じ思い出を共有して笑い合えることが、ただただ幸せだ。
「六校って全部走ると8kmコースだって、清水が言ってた」
「同級生の水泳部だった子ね」
「そう、こないだのライブに来てたヤツ」
「あのコね……」
萌黄 さんがくすくすと笑って俺を上目づかいに見上げるから、そのカワイイ鼻をきゅぅっと摘まんでやる。
「あにするのー」
「忘れて」
「やだー」
最近、萌黄 さんはこんなふうに甘えてくれるんだ。
それは非常に嬉しいんだけど、今回だけはマジで忘れてほしい。
清水め。
次に会ったときには覚えてろよ。
メンバーの就職活動も落ち着いた今月の初め。
同じ貸しスタジオを使う縁で仲良くなった、3グループ合同のライブがあった。
約束どおりアイ子さんが「友情出演」してくれて、ライブは大盛況。
ライブに来てくれた懐かしい顔も、そのまま打ち上げに参加したりして、本当に楽しかったのだけれど。
事件はその打ち上げの最中に起こった!
「初めまして、清水ですっ!いやぁ、ずっとお会いしたかったんですよねぇ」
中学のときと変わらない懐っこい笑顔で、清水が萌黄 さんに挨拶をする。
「ラッパ、すげぇよかったです!かっくぃ~、ひゅーひゅー!」
「オマエ、飲み過ぎだぞ」
フレンドリーがアホレベルに突き抜けた清水の手からジョッキを取り上げて、水の入ったグラスと交換した。
「ほら、こっちにしとけ」
「ん、あんがと……。ぷはっ」
一気に空にしたグラスをテーブルに置いて、清水はしみじみと萌黄 さんを眺めてため息をつく。
「はぁ~、なるほどねぇ~。こんな人が恋人なら、木場野 もフニャケるよなぁ」
ドヤ顔をしてうなずいているけど、清水、オマエそのうち絶対シメてやるからな。
「中学んときはナイフみたいに尖がってたのに、オマエ、別人みたいに愛想よくなったもんなぁ、高校入ったら。手帳も眺めなくなったし」
「手帳?」
両手を開いた本のような形にしている清水を前に、萌黄 さんが小首を傾げている。
……話の流れがヤバい。
「あれ、知らないっすか?木場野 ってば手帳眺めては、懐かしそーな顔して、」
そういや「なに見てんだよぉ」って背中を突かれて、驚いて怒鳴ったことがあったっけ。
「おい!」
得意気に話し続ける口を塞ごうとした俺の手は、不自然なほど朗らかな笑みを浮かべた萌黄 さんによって、さえぎられてしまった。
「そうなんだ。羊介 くんは、その手帳を大事にしてたのね」
「萌黄 さんっ」
「なあに?聞かれたらマズイことでもあるの?」
「そ、ういう、ワケじゃないけど」
動揺する俺に気がつかない清水が、ドヤ顔のまま話し続ける。
「その顔見たら、絶対コイツ好きなコいるんだなーって丸わかりでしたよ。普段は仏頂面で、女子に話しかけられても、ろくに挨拶もしないヤツなのに」
「挨拶くらいしてただろっ」
「”おぅ”が挨拶ならな。なのに、こっそり手帳見てるときだけは、せっつなそうに笑ったり、ため息なんかついてるし」
「黙れ」
「中学んときは黙っといてやったろ」
「今も黙れ」
「羊介 くん、ちょっと向こうで話そうか。……清水君、しばらく失礼するね」
千草 大魔王を彷彿とさせる萌黄 さんから襟首をつかまれて、体育館裏、いや壁際に連れ出された俺の運命やいかに!
って、洗いざらい白状するしかなかったんだけど。
「私の手紙?誰かほかの女の子の写真とかじゃなくて?」
「当たり前だろ。萌黄 さんの手紙以外、俺には大切なモンなんてなかったんだよ、あのころ」
「……羊介 くん……」
みるみる眉毛を下げた萌黄 さんが、盛り上げっている会場をチラリと振り返ってから、俺に耳打ちをする。
「今日はもう帰ろうか。……うちに泊まっていかない?」
「いいの?」
女神の微笑をひとつ見せた萌黄 さんは、幹事役のアイ子さんに断りを入れてから、俺を会場から連れ出してくれたんだ。
手紙の秘密は知られてしまったけれど。
その日の夜は、本当に夢かと思うほど幸せで。
萌黄 さんはとっても優しくて、いつになく熱く俺に応えてくれた。
いつもは恥ずかしがってためらう、俺の邪 な望みも受け入れてくれて、存分に甘やかしてくれて。
リアルに昇天しちゃうんじゃないかと思った。
あんな時間を過ごすことができるなら、たまには恥ずかしい思いをするのも悪くない。
だけど、それから中高の思い出話をするたびに、萌黄 さんが思い出し笑いをして、俺が仕返しをするという流れがお決まりになっている。
秋が深まる「六校」をのんびり歩きながら、俺は萌黄 さんの手をぎゅっと握った。
「もう勘弁してよ。それだけが唯一の希望だったんだから、しょうがないだろ」
「……ごめんね」
「謝らないで。必要な三年間だったって、今はわかってるんだ。俺を男だと認めてもらうために」
話しているうちに、いつのまにか教会前の道路に差し掛かっている。
教会の周辺には華やかな装いの人たちがたくさんいて、今日もこの教会で結婚式を挙げる人たちがいるみたいだ。
「出会ったころの俺は、コーヒーショップにも連れていけない子供だったしさ」
華やいだ雰囲気に包まれた教会の入り口を見ながら、俺は萌黄 さんの肩に腕を回す。
「”羊介 くんは男の子でしょっ”て言われたときには、ショックだったなぁ」
「だって、あのときはホントに男の子だったじゃない」
「だからさ、いいんだ。ギャップって、心をつかむには最高の手だったと思うし。大きくなっててドキッとしたでしょ?ホントは」
「うん、すごくときめいた」
ふざけたつもりだったのに、返された萌黄 さんの真剣な瞳に、俺のほうこそドキッとしてしまった。
「また会えて嬉しかったし、カッコ良くなっててびっくりしたから。背も高くなってて、声も好きだなぁって」
「くぅっ」
怒涛の誉め言葉が、トストスと俺の胸に刺さっていく。
「大きくなっていて驚いたのに、泣いちゃうから可愛くて」
「まだそれ言うか」
「可愛いのに、握られた手が男の人のものだったからドキドキした」
その告白をもっと聞いていたかったけど、「お式の邪魔になるといけないね」と言う萌黄 さんに促されて、再び俺たちは手をつないで歩き出した。
デートスポット定番の街並が続いているけれど、俺はさっきの告白に浮かれてしまっていて、景色なんて全然目に入ってこない。
男だと意識してくれてたことも、再会を喜んでくれたことも。
言葉にされると、こんなに嬉しいものなんだな。
「あ、ここだね」
萌黄 さんの声で気がつけば、いつの間にか、アイ子さんご推薦の「洋館レストラン」に到着している。
背の高い植え込みの向こうに、まだオープン前の静かなガーテン席が並んでいるのが見えた。
「こんなオシャレなとこ、縁がないからいつも素通りしてたけど。ずいぶんキレイなんだね。HPも見た?」
「うん。……素敵だった」
ほんのり頬を染めて、整えられた庭を眺めている萌黄 さんにキュンとくる。
「気に入った?」
「そうね。ロケーションもいいし、来てくれる人にも楽しんでもらえそう」
「そっか。それならここが第一候補だね」
振り返って、対面にある外人墓地から港方向を眺めれば、木立の向こうに見えるのは、ランドマークにもなっているシルバーのタワー。
そんな異国情緒が残る街並みの散策を続けていると、はしゃぎながら地図をのぞき込んでいる観光客たちとすれ違った。
季節の良い休日だからか、早い時間にも関わらず人出は多い。
「そういえば、こないだサークルで住んでるとこの話になったら、天海 たちに怒られた」
「どうして?」
「俺さ、最初に天海 に会ったとき、”別に案内するほどの街に住んでない”って言ったらしいんだよ。覚えてないけど」
――なにが”フツーの住宅地”よっ。チョー観光地じゃないの――
――は?”俺の家はちょっと離れてる”?なに言ってんの、歩いて行ける距離なんでしょ?フツーとか贅沢!卒業前に、ちゃんと案内してよね――
「てなことを言われてさ」
「そうかもねぇ。名所旧跡って言われてても、地元では散歩コースだったりするものね」
「見慣れた風景だから、とくに何も感じたことなかったけど。今日、萌黄 さんと歩いてて思った。結構いいとこじゃんって。あ、でも、ここはいい」
港を一望できる公園に入ろうとした萌黄 さんの腕を、俺は引っ張って止めた。
「入らない?」
「……ほかのヤツを思い出すんでしょ?」
「昔のことなのに」
「今日は高校の思い出リベンジだからいい。マネとか絶対嫌だ」
「式場の下見も兼ねて来てるのに?」
「いや、それは、そう、なんだけど……」
その上目づかいはズルいだろう!
口元がだらしなくなっちゃうじゃないか。
「中華街で朝粥ブランチしようよ。こないだの梅味噌で食べる唐揚げ、もっかい食べたい」
「じゃあ、そうしようか」
ふわふわと、柔らかく微笑む萌黄 さんとの時間がずっと続いてほしいから、できるだけゆっくりと歩く。
そんなふうにのんびりと中華街へと向かったからか、朝粥とは言っても、ランチに近い時間になってしまった。
「あら、けっこう並んでるね」
「さすが人気店」
でも、待ち時間だってふたりでいればあっという間に過ぎてしまうから、なんにも気にならない。
食後に入った中国茶のお店では二胡の生演奏も聞けたし、聞香杯 で白芽奇蘭 ※の香りを楽しんでいる萌黄 さんは、一幅の美人画みたいだし。
ちょっとした旅行気分と大いなる幸せを味わいながら、サークルの奴らも連れてきたら喜ぶかも、なんて思ってた。
以前の俺だったら、そんなこと考えもしなかっただろうと思う。
俺の変化は、いつだって萌黄 さんがもたらしてくれるんだ。
店を出てから、これから海のほうへ行って散歩をしようか、それともシーバスに乗って移動しようかなんて話しをしながら朝暘門を抜けるときに、中華街に入る前に気になっていたことを思い出した。
「ねえ、萌黄 さん」
「ん?」
「さっきさ、朱雀門の辺りを歩いてたとき、挙動不審じゃなかった?」
「そっ、……そんなこと、ないよ?」
いや、今すでに挙動不審だぞ。
「右に曲がる方の道、明らかに見せないようにしてたじゃん。あっちって何があるの」
「し、知らないっ」
「ふーぅん、知らないんだ」
素知らぬ顔でポケットからスマートフォンを取り出して検索すれば、すぐに萌黄 さんを動揺させそうな建物がヒットする。
でも、これって……。
※白芽奇蘭
半発酵の「青茶 」と呼ばれる種類の烏龍茶。良い香りを楽しむため、一度「聞香杯 」に注いでから「茶杯」に移して飲む。
赤く色づいた桜の葉の間からこぼれてくる、秋の陽射しは暖かい。
そんな校門前で待っていると、急坂をゆっくりと登ってくる、待ち人の姿が見えてきた。
おはようの代わりに「今日みたいな日を小春日和っていうんでしょ」と笑えば、大好きな人が「よく覚えてました」と頭をなでてくれる。
小学生のころはそれが嬉しくも残念だったけど、今は同じ思い出を共有して笑い合えることが、ただただ幸せだ。
「六校って全部走ると8kmコースだって、清水が言ってた」
「同級生の水泳部だった子ね」
「そう、こないだのライブに来てたヤツ」
「あのコね……」
「あにするのー」
「忘れて」
「やだー」
最近、
それは非常に嬉しいんだけど、今回だけはマジで忘れてほしい。
清水め。
次に会ったときには覚えてろよ。
メンバーの就職活動も落ち着いた今月の初め。
同じ貸しスタジオを使う縁で仲良くなった、3グループ合同のライブがあった。
約束どおりアイ子さんが「友情出演」してくれて、ライブは大盛況。
ライブに来てくれた懐かしい顔も、そのまま打ち上げに参加したりして、本当に楽しかったのだけれど。
事件はその打ち上げの最中に起こった!
「初めまして、清水ですっ!いやぁ、ずっとお会いしたかったんですよねぇ」
中学のときと変わらない懐っこい笑顔で、清水が
「ラッパ、すげぇよかったです!かっくぃ~、ひゅーひゅー!」
「オマエ、飲み過ぎだぞ」
フレンドリーがアホレベルに突き抜けた清水の手からジョッキを取り上げて、水の入ったグラスと交換した。
「ほら、こっちにしとけ」
「ん、あんがと……。ぷはっ」
一気に空にしたグラスをテーブルに置いて、清水はしみじみと
「はぁ~、なるほどねぇ~。こんな人が恋人なら、
ドヤ顔をしてうなずいているけど、清水、オマエそのうち絶対シメてやるからな。
「中学んときはナイフみたいに尖がってたのに、オマエ、別人みたいに愛想よくなったもんなぁ、高校入ったら。手帳も眺めなくなったし」
「手帳?」
両手を開いた本のような形にしている清水を前に、
……話の流れがヤバい。
「あれ、知らないっすか?
そういや「なに見てんだよぉ」って背中を突かれて、驚いて怒鳴ったことがあったっけ。
「おい!」
得意気に話し続ける口を塞ごうとした俺の手は、不自然なほど朗らかな笑みを浮かべた
「そうなんだ。
「
「なあに?聞かれたらマズイことでもあるの?」
「そ、ういう、ワケじゃないけど」
動揺する俺に気がつかない清水が、ドヤ顔のまま話し続ける。
「その顔見たら、絶対コイツ好きなコいるんだなーって丸わかりでしたよ。普段は仏頂面で、女子に話しかけられても、ろくに挨拶もしないヤツなのに」
「挨拶くらいしてただろっ」
「”おぅ”が挨拶ならな。なのに、こっそり手帳見てるときだけは、せっつなそうに笑ったり、ため息なんかついてるし」
「黙れ」
「中学んときは黙っといてやったろ」
「今も黙れ」
「
って、洗いざらい白状するしかなかったんだけど。
「私の手紙?誰かほかの女の子の写真とかじゃなくて?」
「当たり前だろ。
「……
みるみる眉毛を下げた
「今日はもう帰ろうか。……うちに泊まっていかない?」
「いいの?」
女神の微笑をひとつ見せた
手紙の秘密は知られてしまったけれど。
その日の夜は、本当に夢かと思うほど幸せで。
いつもは恥ずかしがってためらう、俺の
リアルに昇天しちゃうんじゃないかと思った。
あんな時間を過ごすことができるなら、たまには恥ずかしい思いをするのも悪くない。
だけど、それから中高の思い出話をするたびに、
秋が深まる「六校」をのんびり歩きながら、俺は
「もう勘弁してよ。それだけが唯一の希望だったんだから、しょうがないだろ」
「……ごめんね」
「謝らないで。必要な三年間だったって、今はわかってるんだ。俺を男だと認めてもらうために」
話しているうちに、いつのまにか教会前の道路に差し掛かっている。
教会の周辺には華やかな装いの人たちがたくさんいて、今日もこの教会で結婚式を挙げる人たちがいるみたいだ。
「出会ったころの俺は、コーヒーショップにも連れていけない子供だったしさ」
華やいだ雰囲気に包まれた教会の入り口を見ながら、俺は
「”
「だって、あのときはホントに男の子だったじゃない」
「だからさ、いいんだ。ギャップって、心をつかむには最高の手だったと思うし。大きくなっててドキッとしたでしょ?ホントは」
「うん、すごくときめいた」
ふざけたつもりだったのに、返された
「また会えて嬉しかったし、カッコ良くなっててびっくりしたから。背も高くなってて、声も好きだなぁって」
「くぅっ」
怒涛の誉め言葉が、トストスと俺の胸に刺さっていく。
「大きくなっていて驚いたのに、泣いちゃうから可愛くて」
「まだそれ言うか」
「可愛いのに、握られた手が男の人のものだったからドキドキした」
その告白をもっと聞いていたかったけど、「お式の邪魔になるといけないね」と言う
デートスポット定番の街並が続いているけれど、俺はさっきの告白に浮かれてしまっていて、景色なんて全然目に入ってこない。
男だと意識してくれてたことも、再会を喜んでくれたことも。
言葉にされると、こんなに嬉しいものなんだな。
「あ、ここだね」
背の高い植え込みの向こうに、まだオープン前の静かなガーテン席が並んでいるのが見えた。
「こんなオシャレなとこ、縁がないからいつも素通りしてたけど。ずいぶんキレイなんだね。HPも見た?」
「うん。……素敵だった」
ほんのり頬を染めて、整えられた庭を眺めている
「気に入った?」
「そうね。ロケーションもいいし、来てくれる人にも楽しんでもらえそう」
「そっか。それならここが第一候補だね」
振り返って、対面にある外人墓地から港方向を眺めれば、木立の向こうに見えるのは、ランドマークにもなっているシルバーのタワー。
そんな異国情緒が残る街並みの散策を続けていると、はしゃぎながら地図をのぞき込んでいる観光客たちとすれ違った。
季節の良い休日だからか、早い時間にも関わらず人出は多い。
「そういえば、こないだサークルで住んでるとこの話になったら、
「どうして?」
「俺さ、最初に
――なにが”フツーの住宅地”よっ。チョー観光地じゃないの――
――は?”俺の家はちょっと離れてる”?なに言ってんの、歩いて行ける距離なんでしょ?フツーとか贅沢!卒業前に、ちゃんと案内してよね――
「てなことを言われてさ」
「そうかもねぇ。名所旧跡って言われてても、地元では散歩コースだったりするものね」
「見慣れた風景だから、とくに何も感じたことなかったけど。今日、
港を一望できる公園に入ろうとした
「入らない?」
「……ほかのヤツを思い出すんでしょ?」
「昔のことなのに」
「今日は高校の思い出リベンジだからいい。マネとか絶対嫌だ」
「式場の下見も兼ねて来てるのに?」
「いや、それは、そう、なんだけど……」
その上目づかいはズルいだろう!
口元がだらしなくなっちゃうじゃないか。
「中華街で朝粥ブランチしようよ。こないだの梅味噌で食べる唐揚げ、もっかい食べたい」
「じゃあ、そうしようか」
ふわふわと、柔らかく微笑む
そんなふうにのんびりと中華街へと向かったからか、朝粥とは言っても、ランチに近い時間になってしまった。
「あら、けっこう並んでるね」
「さすが人気店」
でも、待ち時間だってふたりでいればあっという間に過ぎてしまうから、なんにも気にならない。
食後に入った中国茶のお店では二胡の生演奏も聞けたし、
ちょっとした旅行気分と大いなる幸せを味わいながら、サークルの奴らも連れてきたら喜ぶかも、なんて思ってた。
以前の俺だったら、そんなこと考えもしなかっただろうと思う。
俺の変化は、いつだって
店を出てから、これから海のほうへ行って散歩をしようか、それともシーバスに乗って移動しようかなんて話しをしながら朝暘門を抜けるときに、中華街に入る前に気になっていたことを思い出した。
「ねえ、
「ん?」
「さっきさ、朱雀門の辺りを歩いてたとき、挙動不審じゃなかった?」
「そっ、……そんなこと、ないよ?」
いや、今すでに挙動不審だぞ。
「右に曲がる方の道、明らかに見せないようにしてたじゃん。あっちって何があるの」
「し、知らないっ」
「ふーぅん、知らないんだ」
素知らぬ顔でポケットからスマートフォンを取り出して検索すれば、すぐに
でも、これって……。
※
半発酵の「