貴女と
文字数 3,999文字
スマートフォンを取り出して時間を確認すると、直前のメッセージで伝えられた到着時間まで、あと15分くらい。
十日ぶりにやっと会える。
そう思うと、口元がむずむずして顔がだらしなくなるのがわかるから、必要以上に力を入れて唇を引き結んだ。
今日は俺が夕飯作るよって言ったら、萌黄 さんは喜んでくれるかな。
ほめてくれたら、「ゴホウビちょうだい」って言ってみよう。
きっと萌黄 さんは「なにを言っているの、あなたは」って、ちょっと呆れて笑うんだろうな。
「あれ、何がそんなに嬉しいんですか?」
「はぇっ?!」
裏返った俺の声に、見上げているトランペットの1年生がぎょっとしている。
「え、どうしたんです?」
「嬉しいとか、べつにないけど」
「え、それって笑ってる顔じゃないんっすか」
「ちげぇよ」
「うっすらニマニマしてるぞー」
隣にいた雷 が、俺の腹に肘鉄をくらわしてきた。
「王子様はゴキゲンなんだよなー、お迎えが来るから」
「王子はお前だろ」
あごをしゃくって見下ろしてやると、雷 がたちまち目を尖らせる。
「んだと、テメっ」
「”はぁ~ん、イカヅチ王子ねぇ。かつて雷帝と呼ばれた暴虐帝がいたけどさ。サンダーごときが治める国なんて、一晩で滅ぼしてやるよ、アタシが”」
これは去年の秋からバンド仲間になった雷 に、ファーストコンタクトでぶちかましていたアイ子さんのマネだ。
「サンダー言うなよ、メーちゃん。ビミョーに似てて、よけい腹立つわ」
「ホントだ。アイ子さん以外からメーちゃん呼ばわりされると、めっちゃ腹立つな」
「だろ?」
雷とがっつり握手を交わしていると、宿泊所から出てきた天海 が、足を止めて振り返る。
「雷 にそんなこと言える人がいるの?てか、雷 は怒らないの?」
「んなことしてみろ。猛攻撃食らって焼け野原だよ」
「ほぅ、その言い方だと、ムダな抵抗をしたことがあると」
「無駄言うなよ」
「ムダじゃなかったんだ?」
「……無駄だった」
うなだれた雷 の肩をポンポンと叩けば、げっそりとした顔が上がった。
「ちょっと言い返したんだけどさ」
「おぉ、勇者よ」
「とたんに笑顔がバフォメット」
「わかるわかる」
「……笑顔が、バフォメット?」
天海が中途半端な笑顔で首をかしげる。
「木場野 の女神の友だちはなあ、悪魔なんだぞ!」
「正解、大正解」
「木場野 お前、笑ってないで助けろよ」
「ムリだろ」
「……無理だな」
なんて仲間とふざけていたら、聞き慣れたエンジン音が近づいてきた。
「木場野 ぉぉぉぉ!」
「ちっ」
だいぶ先に出発していたはずの、車大好きトロンボーンセンパイが全速力でこっちに戻ってくる。
「おま、お前ぇ!ゆっきー先輩来るなら教えとけよっ」
「なんでですか、イヤですよ」
「憧れのヒトにくらい会わせろよっ」
「憧れの、ヒト……?」
「あ、いえ、憧れのクルマです。M3かっこいいなー、憧れちゃうなー」
「さっさと消えてください、センパイ。なんだったら俺が物理的に消してさしあげますよ。俺の意識のなかではとっくに消えてますけどね。あれ、センパイの姿が見えないなー」
「先輩に対する敬意は?!」
センパイをからかって楽しんでいる間に、白いドイツ車が軽やかに滑り込んできた。
「おぉ~!相変わらず、素敵テクだなぁ」
目にハートマークを浮かべているセンパイを、どうやって排除しようかと考えている俺の目の前で、ドイツ車のドアが開いて女神が降臨する。
「誰、あの人」
「カッコイイ……」
周囲にいた1年生たちのざわめきに、口の端がにんまりと上がった。
もっとほめてもいいけど、それ以上見るなよと思っていると、カッコイイなんて言葉じゃ表現しきれない女性 がこちらへと歩いてくる。
紺のワイドパンツのセットアップは涼しげで、シースルー袖のブラウスが色っぽい。
ちょっとフォーマルな雰囲気もあって、オトナの清楚さと可愛らしさがダダ漏れだ。
「ご無沙汰してます、ゆっきー先輩っ!」
……しまった、見惚れてる場合じゃなかったのに。
ぶんぶんと手を振りながら挨拶をする、トロンボーンセンパイの上擦った声で我に返る。
「ご無沙汰。元気そうね」
「はい!すっごく!ゆっきー先輩、今年も車乗せて」
「一緒に乗ってきます?」
「え、いいの?」
「木場野 、マジで言ってんの」
センパイと雷 が、同時に俺を振り仰いだ。
「その代わり、最初のSAで降りてもらいますけど」
「いや、そのあとオレどうやって帰んの」
「SAにペット捨てるのは犯罪だぞ」
「ペット扱い?!お前らは先輩に対する態度を今すぐ改めて?」
ふざけ合う俺たちを前に、女神はくすくすと笑っている。
「木場野 先輩のお姉さまですか?ご姉弟 で美人さんなんですね」
「あ?」
気安く近づいていく1年生の襟首を、ひっつかんで引き戻した。
「ぐぇ」
「お姉さまじゃねぇんだよ、お前の目は」
「こらこら」
後輩を逃がしたあとで、女神の手が俺の口を塞ぐ。
「はじめまして。OGの雪下 です。……木場野 羊介 くんの、あの、えっと」
ほんのりと頬を染めているステキカッコイイ、そして、もれなくカワイイ女神が、恥ずかしそうに視線を落とした。
……どうやら俺を昇天させるおつもりらしい。
「か、カノジョなの。……よろしくね」
「おーい木場野 、生きてるかー」
雷 の膝カックンによって蘇生した俺は、思わず口元の萌黄 さんの手を握り込んだ。
「ちょ、なに指先にキスとかしちゃってんの!騎士なの?一神教の信者改め、ナイトになったわけ?」
「いちゃつくならどっか行けって言ってるだろっ」
センパイと雷 が喚 いているのを無視して、萌黄 さんに微笑みかけたけど。
せっかく握っていた手をさっと振り払った女神から、鋭いデコピンを頂戴してしまった。
「イデっ!」
「正気に戻って、羊介 くん」
「俺はいつも正気だよ」
「嘘をつかない、ポンコツくん」
「ポンコツになるのは、萌黄 さんがカワイイからに決まってるじゃん」
「そんな決まりはありません」
いつもどおりのやりとりに、体どころか心の隅々まで緩んでくる。
「き、木場野 先輩がホホエんでるっ」
「あのヒト、木場野 さんのカノジョだってぇ」
1年生たちのざわめきが大きくなるなか、萌黄 さんが俺の腕を取ってにっこりと笑った。
「ということだからこのポンコツ、いえ羊介 くんは回収するね。王子、また練習のときに」
「もー、王子はやめてくださいって。……はいはい、お気をつけて」
呆れている雷 に見送られながら、萌黄 さんはぴったりと俺に寄り添って歩く。
周りに知り合いがたくさんいるのに、照れずにカレシ扱いしてくれるなんて!
その理由を聞こうと思ってのぞき込めば、「会いたかったよ」なんて言うもんだから、ギュッと抱きしめたい気持ちを抑えるのに精一杯になってしまった。
まったく。
なんて罪深い女神だ。
◇
みんなに俺をカレシだと宣言してくれたあの夏から、萌黄 さんの態度はずいぶん吹っ切れたものになったと思う。
千草 さんに紹介してくれたときにも、距離が縮まったと思ったけれど。
それよりも、もっと。
……もちろん、俺がポンコツになりかければ、今までどおりの塩対応なんだけど。
嬉しい反面、恋人扱いしてくれればくれるほど、俺はこのままでいいのかと考えるようになった。
焦っても、急に大人になれるわけでもない。
だからって、譲ることも引くこともしたくないんだ。
ならば。
一念発起した俺は家庭教師のバイトに加えて、短期契約の警備の仕事をすることにした。
ダブルワークの覚悟を後押ししてくれたのは、ダメもとで受けた簿記試験の合格。
発端は、他大だけど同じ学部だった兄に触発されて、去年なんとなく受けた簿記3級。
「ま、1年生で受かりっこないだろうけどな」って言ってたヤツの目つきが気に入らなくて、意地になって合格をもぎ取った。
悔しそうにしてるヤツを前に、とりあえず気は済んだんだけど。
「それで社会人の萌黄 さんに並べると思ってんなら、相当オメデタイよな」
負け惜しみの余計な一言にムカムカきた。
「気安く名前呼んでんじゃねぇよ」
「なんでだよ」
「穢 れんだろ」
「んだと?じゃ、なんて呼べばいいんだよ。雪下 さんか?そうか、一生雪下 さんなんだな、彼女は」
嫌味な笑顔のど真ん中に、拳 を叩きつけてやりたくなる。
「やっと手放す決意ができたってか。じゃあ、俺がもらっちゃったっていいよな」
「紹介もしてねぇだろっ。したってテメ―なんか選ばねぇよ」
「だよなー、元カレのアニキなんて嫌だよなー」
ニヤニヤニヤニヤ、ホントうぜぇ。
元カレ呼ばわりされた俺の握りこぶしに、ぎゅっと力が入る。
「まあ、半分冗談だけどよ」
半分の本気で十分だな。
ぐっと腕を引いた俺に気づいたのか気づかなかったのか、暴虐兄が背中を向ける。
「でも実際、あの人の周りって、オトナの男だらけだろ。油断してるヒマがねぇな」
「っ!」
ずっと心に刺さっていて、気づかないフリをしていたトゲをガツっとつかまれて、ぐりぐりかき回されたような気分になった。
油断してるつもりなんてない。
だって、望みには際限がないって知っているから。
一目会いたくて、会えたらもっと一緒にいたくなって。
自分の気持ちを伝えられたら十分だと思ってたのに、やっぱり心が欲しくなった。
心が手に入ったら……。
暴虐兄の暴言がきっかけだったけど、願望と欲望を叶えるために、がむしゃらになれた。
正直、今年の2級は力試しのつもりだったんだけど。
基準点をクリアしたとわかったときには、大学に合格したときよりも嬉しかった。
「羊介 って、萌黄 さんのためなら、とことん頑張れるのねぇ」
なんて感心している母親の横で、暴虐兄があんぐりと口を開けている。
「手放すつもりなんかねぇからな」って宣言したけど、返事はない。
ただの屍 のようだ。
ザマミロ。
俺は決めたんだ。
萌黄 さんと一緒にいても誰にも文句を言われない、そんな人間になるんだって。
十日ぶりにやっと会える。
そう思うと、口元がむずむずして顔がだらしなくなるのがわかるから、必要以上に力を入れて唇を引き結んだ。
今日は俺が夕飯作るよって言ったら、
ほめてくれたら、「ゴホウビちょうだい」って言ってみよう。
きっと
「あれ、何がそんなに嬉しいんですか?」
「はぇっ?!」
裏返った俺の声に、見上げているトランペットの1年生がぎょっとしている。
「え、どうしたんです?」
「嬉しいとか、べつにないけど」
「え、それって笑ってる顔じゃないんっすか」
「ちげぇよ」
「うっすらニマニマしてるぞー」
隣にいた
「王子様はゴキゲンなんだよなー、お迎えが来るから」
「王子はお前だろ」
あごをしゃくって見下ろしてやると、
「んだと、テメっ」
「”はぁ~ん、イカヅチ王子ねぇ。かつて雷帝と呼ばれた暴虐帝がいたけどさ。サンダーごときが治める国なんて、一晩で滅ぼしてやるよ、アタシが”」
これは去年の秋からバンド仲間になった
「サンダー言うなよ、メーちゃん。ビミョーに似てて、よけい腹立つわ」
「ホントだ。アイ子さん以外からメーちゃん呼ばわりされると、めっちゃ腹立つな」
「だろ?」
雷とがっつり握手を交わしていると、宿泊所から出てきた
「
「んなことしてみろ。猛攻撃食らって焼け野原だよ」
「ほぅ、その言い方だと、ムダな抵抗をしたことがあると」
「無駄言うなよ」
「ムダじゃなかったんだ?」
「……無駄だった」
うなだれた
「ちょっと言い返したんだけどさ」
「おぉ、勇者よ」
「とたんに笑顔がバフォメット」
「わかるわかる」
「……笑顔が、バフォメット?」
天海が中途半端な笑顔で首をかしげる。
「
「正解、大正解」
「
「ムリだろ」
「……無理だな」
なんて仲間とふざけていたら、聞き慣れたエンジン音が近づいてきた。
「
「ちっ」
だいぶ先に出発していたはずの、車大好きトロンボーンセンパイが全速力でこっちに戻ってくる。
「おま、お前ぇ!ゆっきー先輩来るなら教えとけよっ」
「なんでですか、イヤですよ」
「憧れのヒトにくらい会わせろよっ」
「憧れの、ヒト……?」
「あ、いえ、憧れのクルマです。M3かっこいいなー、憧れちゃうなー」
「さっさと消えてください、センパイ。なんだったら俺が物理的に消してさしあげますよ。俺の意識のなかではとっくに消えてますけどね。あれ、センパイの姿が見えないなー」
「先輩に対する敬意は?!」
センパイをからかって楽しんでいる間に、白いドイツ車が軽やかに滑り込んできた。
「おぉ~!相変わらず、素敵テクだなぁ」
目にハートマークを浮かべているセンパイを、どうやって排除しようかと考えている俺の目の前で、ドイツ車のドアが開いて女神が降臨する。
「誰、あの人」
「カッコイイ……」
周囲にいた1年生たちのざわめきに、口の端がにんまりと上がった。
もっとほめてもいいけど、それ以上見るなよと思っていると、カッコイイなんて言葉じゃ表現しきれない
紺のワイドパンツのセットアップは涼しげで、シースルー袖のブラウスが色っぽい。
ちょっとフォーマルな雰囲気もあって、オトナの清楚さと可愛らしさがダダ漏れだ。
「ご無沙汰してます、ゆっきー先輩っ!」
……しまった、見惚れてる場合じゃなかったのに。
ぶんぶんと手を振りながら挨拶をする、トロンボーンセンパイの上擦った声で我に返る。
「ご無沙汰。元気そうね」
「はい!すっごく!ゆっきー先輩、今年も車乗せて」
「一緒に乗ってきます?」
「え、いいの?」
「
センパイと
「その代わり、最初のSAで降りてもらいますけど」
「いや、そのあとオレどうやって帰んの」
「SAにペット捨てるのは犯罪だぞ」
「ペット扱い?!お前らは先輩に対する態度を今すぐ改めて?」
ふざけ合う俺たちを前に、女神はくすくすと笑っている。
「
「あ?」
気安く近づいていく1年生の襟首を、ひっつかんで引き戻した。
「ぐぇ」
「お姉さまじゃねぇんだよ、お前の目は」
「こらこら」
後輩を逃がしたあとで、女神の手が俺の口を塞ぐ。
「はじめまして。OGの
ほんのりと頬を染めているステキカッコイイ、そして、もれなくカワイイ女神が、恥ずかしそうに視線を落とした。
……どうやら俺を昇天させるおつもりらしい。
「か、カノジョなの。……よろしくね」
「おーい
「ちょ、なに指先にキスとかしちゃってんの!騎士なの?一神教の信者改め、ナイトになったわけ?」
「いちゃつくならどっか行けって言ってるだろっ」
センパイと
せっかく握っていた手をさっと振り払った女神から、鋭いデコピンを頂戴してしまった。
「イデっ!」
「正気に戻って、
「俺はいつも正気だよ」
「嘘をつかない、ポンコツくん」
「ポンコツになるのは、
「そんな決まりはありません」
いつもどおりのやりとりに、体どころか心の隅々まで緩んでくる。
「き、
「あのヒト、
1年生たちのざわめきが大きくなるなか、
「ということだからこのポンコツ、いえ
「もー、王子はやめてくださいって。……はいはい、お気をつけて」
呆れている
周りに知り合いがたくさんいるのに、照れずにカレシ扱いしてくれるなんて!
その理由を聞こうと思ってのぞき込めば、「会いたかったよ」なんて言うもんだから、ギュッと抱きしめたい気持ちを抑えるのに精一杯になってしまった。
まったく。
なんて罪深い女神だ。
◇
みんなに俺をカレシだと宣言してくれたあの夏から、
それよりも、もっと。
……もちろん、俺がポンコツになりかければ、今までどおりの塩対応なんだけど。
嬉しい反面、恋人扱いしてくれればくれるほど、俺はこのままでいいのかと考えるようになった。
焦っても、急に大人になれるわけでもない。
だからって、譲ることも引くこともしたくないんだ。
ならば。
一念発起した俺は家庭教師のバイトに加えて、短期契約の警備の仕事をすることにした。
ダブルワークの覚悟を後押ししてくれたのは、ダメもとで受けた簿記試験の合格。
発端は、他大だけど同じ学部だった兄に触発されて、去年なんとなく受けた簿記3級。
「ま、1年生で受かりっこないだろうけどな」って言ってたヤツの目つきが気に入らなくて、意地になって合格をもぎ取った。
悔しそうにしてるヤツを前に、とりあえず気は済んだんだけど。
「それで社会人の
負け惜しみの余計な一言にムカムカきた。
「気安く名前呼んでんじゃねぇよ」
「なんでだよ」
「
「んだと?じゃ、なんて呼べばいいんだよ。
嫌味な笑顔のど真ん中に、
「やっと手放す決意ができたってか。じゃあ、俺がもらっちゃったっていいよな」
「紹介もしてねぇだろっ。したってテメ―なんか選ばねぇよ」
「だよなー、元カレのアニキなんて嫌だよなー」
ニヤニヤニヤニヤ、ホントうぜぇ。
元カレ呼ばわりされた俺の握りこぶしに、ぎゅっと力が入る。
「まあ、半分冗談だけどよ」
半分の本気で十分だな。
ぐっと腕を引いた俺に気づいたのか気づかなかったのか、暴虐兄が背中を向ける。
「でも実際、あの人の周りって、オトナの男だらけだろ。油断してるヒマがねぇな」
「っ!」
ずっと心に刺さっていて、気づかないフリをしていたトゲをガツっとつかまれて、ぐりぐりかき回されたような気分になった。
油断してるつもりなんてない。
だって、望みには際限がないって知っているから。
一目会いたくて、会えたらもっと一緒にいたくなって。
自分の気持ちを伝えられたら十分だと思ってたのに、やっぱり心が欲しくなった。
心が手に入ったら……。
暴虐兄の暴言がきっかけだったけど、願望と欲望を叶えるために、がむしゃらになれた。
正直、今年の2級は力試しのつもりだったんだけど。
基準点をクリアしたとわかったときには、大学に合格したときよりも嬉しかった。
「
なんて感心している母親の横で、暴虐兄があんぐりと口を開けている。
「手放すつもりなんかねぇからな」って宣言したけど、返事はない。
ただの
ザマミロ。
俺は決めたんだ。