逆鱗に触れれば
文字数 3,503文字
「なるほどね。よくある話だけど、ちょっとおイタが過ぎるかな。……
「熱を、出していて……」
言葉を濁す外波山に、
「……そう。首の怪我は?」
「え?」
「無理やり引き千切られたんでしょう?首に傷があるかな、と思ったんだけど」
「はい。そのとおりです」
「ひどい?」
「いえ、
「そう。わかった」
「食事は終わってるみたいね。では、ヤンチャした1年生をお借りしたいのだけれど」
「
「
「え、探すって、誰が?」
その意図が今ひとつ読めずに、
「私が」
「先輩が?あの、1年生にやらせようかと思ってたんですが」
「やらかした1年生に手伝わせたところで、隠されたり、より遠くへ投げられてしまっては元も子もないでしょう」
「そんなことは、さすがにしないと思いますけど」
取りなそうとする合宿リーダーを見下ろす、
「絶対ないと保証できる?いくらお酒が入っていたとはいえ、人が身につけているネックレスを奪える人間でしょう。しかも、ルール破りをするような
「
あくまで静かな
「リーダーとして、問題の原因を把握してねって。できてるの?」
「いえ、まだです」
「発端は、学生同士のつまらない感情のもつれかもしれない。けれど、私物を無理やり奪って怪我をさせたことを、見逃すことはできない」
「……おっしゃるとおりです」
「私はきちんと見届けたいの。部外者である私には権利がないというのなら、もしくは、私がそのやり方に納得がいかなかったら、
「そ、れは……」
「彼を傷つけるだけの場所に、彼を守る人のいない場所にいさせたくないの。それで、
「……その前に、俺から皆に、話をさせてもらってもいいですか」
「話?」
顔を上げた
「昨日は木場野も
あんな
でしたし、当事者同士での話もできていないんです。でも、現場は花火に参加した者、全員が見ている。憶測で間違った噂話が広がる前に、説明する責任があると思うんです」「わかった」
「ちょっと聞いてほしい。
「まず、約束事は守れ。ちょっとくらい、自分ひとりくらい、いいだろうというのは甘えだ。サークルの規定に従えないなら、不満があるなら退部しろ。このバンドは強制じゃない」
「俺たちは、同じアンサンブルバンドのメンバーだ。同じ曲を演奏する仲間だ。人間だから、好きも嫌いもあるだろう。けど、その感情をダイレクトに相手にぶつけるなんてのは、子供のやることだぞ。大人なら、自分の感情は自分でコントロールしろ。あとな……」
硬い表情を崩さない
「どんな理由があっても、人の持ち物に手を出すことは窃盗だ。ちょっとしたイタズラ、おふざけ。そんな言い訳は通らないんだよ。もう大学生なんだから」
「とりあえず、今はこれで解散。
「ええっ?」
「どうせ、もう見つかりっこないですよ」
「お前なあ……」
「探してみないと、わからないだろうが」
「弁償しますよ。そのほうが早いでしょう」
ふてくされて、開き直っているような
「弁償?」
その鋭い声に、
(なんだよ、さっきからあの女は。OG?でも、今のサークルには関係ないだろ。そんなヤツが、なにをわざわざ
些細な
サークルの揉め事に口を挟んでくるんだよ)「!!」
(……すげぇ目力……)
つばを飲み込んだ
「お金を払えば、それで済むことだとでも?
食堂の端から、
「傷つけておいて、金で解決すればいいだなんて思う人間が奏でる曲は、それはステキなんでしょうね。
1年生たちが座るテーブルの真正面に立って、
「さっき
「ゆ、
「ねえ、
振り返った
「私はね、怒っているのよ。……そこの落ち着きのない男ども」
「あなたたちに探せとは言っていないでしょう。場所を教えてと、お願いしてるだけなのよ。それでも来ないの?じゃあ、あなたたちは、どうケリをつけるつもり?」
「そ、それは、
「有名な格言に、”ごめんで済んだら警察はいらない”というのがあります」
「……それ、格言じゃねぇ」
ぼそっとつぶやいた
「あなたにとっては格言も同然でしょう。被害届を出してもいいのよ」
「あ……」
その薬指に光る指輪を見て、
あの
指輪。それと同じ指輪をはめているこの人は、無関係な第三者なんかじゃない。
なぜこの人が事情を知り、早朝にもかかわらず駆けつけてきのか。
(年上カノジョって……)
「カバンをひったくって盗んでごみ箱に捨てて。あとでカバン代を支払ったらから窃盗犯じゃありません、なんて世迷い言が世間で通用すると思ってる?」
金銭で解決すればいいと思っていた
「犯罪とせずに済ませるかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。来るの?来ないの?」
テーブルに乗せた腕に体重をかけ、
「大した理由もないのに人のものを奪って、怪我を負わせて風邪までひかせて。どう落とし前をつけるかは
「……び、ビールをちょこっと飲むくらい、誰だってやってる、じゃ……」
言い訳を繰り返そうとした
「確かに、大目に見てもらえる場合もあるでしょうね。でも、あなたの態度によっては、私は黙っているつもりはない。もう一度聞くわよ。来るの、来ないの」
ガガ、ギギィ……
イスが床をこする耳障りな音とともに、うつむいたままの
「いい子ね。さあ、案内してちょうだい」
薄く微笑んでそれだけ言うと、