二人っきりの ダイバーシティ

文字数 1,134文字

彼とは、些細なことで、些細な喧嘩をする。

彼からの発端。
帰りが遅くなるときは、何時に帰るかLINEしてくれとか、とろけるチーズとプチトマトを載せてオープンントースターしたときは、汚れるから、クッキングシートを敷いてくれとか。

私からの発端。
ここに置いておいたカーディガン、すぐ着ようと思っていたのに勝手にしまわないでとか、一緒に外出して電車に乗るとき、何時何分の電車に乗らなきゃだめって急がせないで、どうせすぐ次のが来るんだからとか。

きちんとしておきたい、ものごとをはっきりさせたい彼。
少しルーズで、あいまいにしておきたい私。

結婚前につきあっていた頃からその性格の違いはなんとなくわかっていたが、一緒に暮らし始めると日々小さな衝突が起きる。

 ◇ ◇ ◇

二人分の食事を用意するときは、やっかいだ。

少しだけ例を挙げると、
目玉焼き。
僕は、片面焼きで半熟気味、彼女はサニーサイドダウンで黄身は固め。
僕は、目玉焼きには塩コショウ、彼女はウスターソース。
オムライスのトッピング。
僕は、レトルトのデミグラスソース、彼女はシンプルにケチャップ。
みそ汁。
僕は甘い白味噌、彼女は八丁味噌。
紅茶。
僕はミルク、彼女はレモン。

お互いのこだわりが違う。できればどっちかが妥協して、同じものを用意すればいいのだけれど、食い物の恨みは恐ろしい。それに、僕の性分としては、こんなことで手を抜きたくない。だから別々のものを用意する。
そして何よりも、美味しいと嬉しそうに食べてくれる。そうやって僕が一方的に食事係をやらされている気もするが。

 ◇ ◇ ◇

二人にとって共通の友人が結婚する。揃ってお披露目パーティーに出席した。立食形式のカジュアルで楽しいひと時だった。

司会者が新郎新婦お互いのいいところをインタビューする。
「性格の一致・・・というんですか、一緒にいて楽なんです。」新郎が照れながら答える。

僕はスコッチのロックをちびちび飲みながら、少し離れたカウンターでワインを飲んでいる彼女に目を遣る。
彼女もこっちを見てニヤニヤしている。

「食べ物の好みも似てるんですよね。食事の時間が楽しいです。」新婦が嬉しそうに答える。
私は、ロックグラスを手にこっちを見てニヤニヤしている彼に、ワイングラスを上げて応える。

きっと、今日の主役の二人は、幸せにうまく暮らしていくだろう。

私たちはどうだろうか?
性格の不一致。好みの不一致。

でも。

彼は、私のいいかげんな性格を認めつつ、尻を叩いてくれる。食事を二人の好み通りにこまめに作ってくれる。
彼女は、ややもすれば焦り気味な僕の気持ちをスローダウンさせてくれる。僕に笑みを伝播してくれる。

答えが出るのは、三年後か、十年後か、いやもっと先か。

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