愛の表現

文字数 427文字

噛まれた首筋の痛みよりも、
そこに流れた涙の熱さが体に沁みた。

「トツゼン、ゴメンナサイ。」
人間ならざる声がそう詫びた。

でも、彼女も一時間前までは、人間だったのだ。
この一年で、世界人口の九割が、人ならざる者に変わったとの推計が出ている。
ここまでくれば、いかに人間のままでいられるか、よりも、誰に噛まれて人間でなくなるか、が残された残された人類の課題となった。

僕と彼女は、話し合い、先に人間でなくなった方が、噛みついて添い遂げようね。
ということになった。

不運にも彼女が先に人ならざる者になってしまったが、彼女に噛みつかれた瞬間、彼女の深い愛を受けとることができた。

本望だ。
ただし、人ならざる者になった今、僕には、ミッションが課されていることに初めて気がついた。
誰かに噛みつけ、と。

僕の愛はすべて彼女に向けられている。
噛みつく対象はいない。

・・・いや、待て。

このお話を読んでくれる、いとおしい人が目の前にいるではないか。

愛をこめて。
トツゼンゴメンナサイ。

ガブリ。
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