辺縁へ

文字数 546文字

僕と彼女は、手を繋いで大地を蹴った。
そのまま成層圏を突き抜け、月へと向かう。

一旦、地球方向に戻り、引力を利用して、さらに宇宙のその先を目指す。
遊星の引力、恒星の引力、銀河の引力を利用して、どんどん加速する。

僕らは、宇宙の果ての果てを目指す。
誰にも邪魔されない、永遠の孤独を手に入れるために。

でも、電波は宇宙の果てまで届く。
電波に察知され、からめ捕られたら、おしまいだ。
僕らは地球に引き戻される。

でもそれは、宇宙の姿がそのまま変わらなかったら、の話。
宇宙は膨張する。
電波のスピードよりもずっと早く。

だから、僕らも宇宙の膨張の速さを手に入れ、宇宙の果てまで飛ぶ。

僕は、彼女に笑いかける。
彼女も笑顔で応える。

電波は執拗に追いかけてくる。
僕らは足の先にそれを感じながらも、前へ、前へ、宇宙の果てに進む。

『あっ!』
彼女が声を漏らした。
バランスを崩してガクンとスピードが落ちる。
このままでは、電波に追いつかれてしまう。

こっちだよ。

誰かが、誘(いざな)う。

それは、宇宙の爆発で吹き飛んできた、小さな小さな、隕石のカケラ。
僕らはその影に身を隠す。

電波は宇宙の辺縁を目指して、直進していった。

僕と彼女は、二人の孤独を勝ち取り、長い長いキスをする。
正確に言うと、星の子が僕たちの孤独を見護ってくれているわけだが。
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