約束の昇華

文字数 390文字

私と夫は、裏の社会で「昭和のペテン夫婦(めおと)」として恐れられ、一世を風靡した。
しかし、その素性は、誰にも知られておらず、もちろん子供たちにも話していない。

「おじいさん、このことは二人のひみつ。だれにも知られずにこの世から去りましょうね。」
「ああ、ばあさんや、もちろんだよ。墓場まで持っていこうじゃないか。」

そう約束して三年後。
夫は病気を患い、先に逝ってしまった。

その間際。
私は、約束を反故にした。

世の人々に、二人の楽しい思い出をどうしても伝えたかった。
数々のコンゲームに勝ち、多くの悪党どもの鼻を明かしてきた、冒険の日々を。

自伝的に、かつスリリングな物語として。
私は、記憶を歴史に定着させるように、書き綴った。
そして、夫婦のペテンの物語は、書籍化され、ベストセラーになった。

私は夫の棺に、その一冊を入れた。
「公然の秘密」を墓場まで持っていってもらい、天国で読んでもらうために。
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