帰りは牛でゆっくりと

文字数 304文字

私たちが住んでいた部屋に帰ってきたけど、
ただいま、なんて言えなかった。

何も考えずに、
彼が用意してくれたキュウリに乗ってしまったけれど、
やっぱ、だめだよね。

騙されて、彼を裏切って、
私は命を落とした。

愚か。罰があたっただけ。
そうなって当然だった。

私は、マンションのドアの前で
キュウリに跨ったまま、泣く。

涙が枯れ、もうこのまま帰ろう、
そう決心した時。

ドアが開いた。
サンダルをつっかけて彼が出てくる。

そして穏やかに微笑む。
あの頃と、何も変わっていない。

おかえり。
よく帰ってきてくれたね。

私は下を向き、顔を手で覆いながら、なんとか声を絞りだす。

ただいま。
・・・そしてごめんね。

さあ、入んなよ。

彼は、とことん優しかった。
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