レコード盤上の、冬の調べ
文字数 517文字
「ねえ、ヴィヴァルディの協奏曲『冬』って、寒いけど、暖かいよね。」
「え?」
ブラバン部で一緒に活動していた、僕のガールフレンド(多分)のトモちゃんが、独り言のようにつぶやいた。
受験が終わり、部活の練習もない、手持ち無沙汰な冬と春との狭間。
コートを少し重く感じながら、いつもの帰り道を歩く。
僕らはこの春から別々の高校に進む。
「寒いけど暖かい? 」
「うん。寒くて辛い一楽章と、寒くて心細い三楽章に挟まれているのに、いや、挟まれてるから、二楽章は、優しくて暖かい。」
少し前を歩くトモちゃんは、顔の前で軽く丸めた両手に、はーっと息を吐く。まだそれは白く見える。
「夕べね、パパがアナログのレコードで聴かせてくれてね。その時、そう感じたの。」
彼女は、振り向き、息で暖めた両方の手のひらで、僕のほっぺたを包んだ。
そして、ささやく。
「寒くて辛くても、心細くても。暖かいものは私の心の中に、ずっとある・・・忘れない。」
僕はそれを聞いて初めて、季節が変わっちゃうんだと気がついた。
冬は、高い空から薄雲と一緒に降りてきて、二人を優しく抱き締めた。
凍えてしまわないように。そっと。
そして、すぐそばで待ってくれていた春に、二人を引き渡した。
「え?」
ブラバン部で一緒に活動していた、僕のガールフレンド(多分)のトモちゃんが、独り言のようにつぶやいた。
受験が終わり、部活の練習もない、手持ち無沙汰な冬と春との狭間。
コートを少し重く感じながら、いつもの帰り道を歩く。
僕らはこの春から別々の高校に進む。
「寒いけど暖かい? 」
「うん。寒くて辛い一楽章と、寒くて心細い三楽章に挟まれているのに、いや、挟まれてるから、二楽章は、優しくて暖かい。」
少し前を歩くトモちゃんは、顔の前で軽く丸めた両手に、はーっと息を吐く。まだそれは白く見える。
「夕べね、パパがアナログのレコードで聴かせてくれてね。その時、そう感じたの。」
彼女は、振り向き、息で暖めた両方の手のひらで、僕のほっぺたを包んだ。
そして、ささやく。
「寒くて辛くても、心細くても。暖かいものは私の心の中に、ずっとある・・・忘れない。」
僕はそれを聞いて初めて、季節が変わっちゃうんだと気がついた。
冬は、高い空から薄雲と一緒に降りてきて、二人を優しく抱き締めた。
凍えてしまわないように。そっと。
そして、すぐそばで待ってくれていた春に、二人を引き渡した。