恋の 当選戦略

文字数 1,066文字

負けて勝つ。

それがこの生徒会長選挙の僕の勝ち筋だ。
いや、それは選挙に勝つためではないが。

ライバル候補は、文武両道、才色兼備(セクハラか?)の同級生。
彼女と僕は、一回目の投票で、偶然にも同点一位。
生徒会顧問の判断で、ガチの討論会の後、決戦投票でこの高校のリーダーを決めることになった。

同じ得票数だが、彼女が獲得した票と僕のそれとは全く質が違う。
彼女への一票は、本当にこの学校をよくしたいという思いを託したもの。
僕への一票は、なんかふざけた奴がおるなあ、でも、オモロイから一票入れたろうか、という『シャレで投票しました』という不純な動機のもの。

僕は、決戦投票でわざと負ける。
こんな人間が生徒達のリーダーになったって、ろくなことはない。
もともと、生徒会の仕事なんて面倒そうだし、やりたくなかった。
じゃあなんで、立候補したがって?
ただただ、彼女に僕のことを知ってもらいたかっただけだ。


全生徒を前にした彼女と僕の公開討論会が始まった。
「まず、改革に向けての第一歩は、ひとりひとりの生徒に耳を傾けることです。」
「そんな、きばらんでもええやん。耳にタコができまっせ。」
僕はエセ関西弁で返し、彼女の熱意を引き立たせる。ひたすらこれを繰り返す。
パイプ椅子に座る生徒達から笑いが起きる。

それでも彼女は冷静に淡々と、自分の主張を繰り返す。これで生徒会長の座は彼女に決まったも同然だ。

討論のおしまいに、彼女が僕に向き直る。
「ところで高野くん、最後に聞きたいんだけど。なんで、生徒会長に立候補したの? とても学校のために何かやってやろうという意志は、何も感じられないんだけど。」

じっと僕を見つめる、というより睨む。
僕はその目力(めぢから)に気圧され、全生徒の前で本音をぶちまける。
「た、ただ佐伯さんに僕のことを知ってもらいたくて。」
「・・・こんなことやって、私の気を惹けると思ってるの?」
「いや、きっかけにでもなればと思って。」
「何甘いこと言ってるのよ・・・」

彼女はハンドマイクを構え直し、正面を向いて声を発した。
「恋に生きたければ、堂々と戦い、勝て!」

体育館中が歓声で湧き、討論会は時間切れとなった。

結果。
もちろん彼女は圧勝して生徒会長になった。

予想外だったのは、生徒会長権限で僕が副会長に指名されたこと。
生徒会の仕事は、やはり忙しかったが、彼女と一緒にやるのは楽しい。
まあ、計画通りにはいかなかったが、当初の目的は達せられたわけだ。

あとあと知ったことだが、あの討論会は、『めおと漫才討論ショウ』と名づけられ、学校のレジェンドとして語り継がれているそうだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み