愛の清算
文字数 828文字
「もしもし。」
「久しぶり。ごめんね、電話しちゃって。どこからかけてるか、わかる?」
俺から十メートルと離れていないところで、こっちを見ながらスマホに耳を当てている女がいる。
「リョウ、いったい何のつもりだ?」
「ボスからのコマンドでね、といっても、私のためでもあるんだけど。裏切者を消しに来たのよ。」
「こんなに人がウジャウジャいる空港のロビーで、いったい何ができるっていうんだ?」
「あら、簡単よ。このロビーのどこかに三人のスナイパーがいるわ。それぞれ、あなた、私、そしてジュリを狙ってスコープを覗いてるの。」
ジュリは、俺と組織を裏切り、これから一緒に高飛びしようと手荷物をカウンターに預けている最中だ。
「相変わらず趣味が悪いな。」
「フフ、それって私にとっては褒め言葉ね。ちょっとしたゲームよ。」
「説明してくれ。」
「これから最初に入る搭乗案内のアナウンスが、ヨーロッパ行きのだったら、あなたのスナイパーが反応する。アメリカ行きだったら私。それ以外はジュリ。」
「お前までゲームに参加して、何のメリットがあるんだ?」
「私が撃たれたら、ジュリは怖がって、あなたと別れるわ。それで十分なの。」
「大騒ぎになるぞ。」
「スナイパーと最近のサイレンサーは優秀だわ。みんなこの場から逃げて、死体が一つ残るだけ。」
アナウンスが入る。
ドイツ、フランクフルト行きだ。
俺は頭に熱さと衝撃を感じ・・・
ここは、教会。
俺の葬儀が行われている。
幽霊になった俺は、自分の葬儀に参列してるってわけだ。
葬儀が終わり、俺は浮遊する。
控室の一部屋に入る。
リョウとジュリが抱き合い、唇を重ねている。
長い口づけが終わるとジュリが声を発する。
「リョウ、邪魔物を片付けてくれてありがとう。」
「お安い御用よ・・・ここは教会だしね、フフッ。永遠の愛を誓うには最適な場所だわ。」
二人は最初からこれが狙いだった。
迂闊だった。
俺が撃たれたのは、ヨーロッパ方面専用ロビーで、他の路線のアナウンスなんか入るはずがなかったのだから。