照らされて
文字数 2,213文字
「秋野くん。職員室……つきあって」
「あのさ、たかが先生にプリントもらいにいくだけだろ」
「だ、だめ……緊張する」
「そろそろ、そいうのは一人でできないとなあ。これからどうすんだよ?」
幼なじみのテルは、超がつく、アガリ症で対人恐怖症で、赤面症だ。
幼稚園のころから誰かと一緒に話したり遊んだりする時は必ずつきあわされた。
僕たちの親や先生はそれを知っているから、行事とかでグループ分けする時なんか、いつもテルと一緒の組に振り分けられた。
彼女は人と面と向かって喋ったり、人前に出ると、真っ赤になってうつむいてしまう。
小学校、中学校、高校もずっとそんな感じ。
テルは頭はいいからもっと偏差値高い高校を受験できたのに、一人になるのが不安だとかで僕と同じ学校を選んだ。
周りの連中によくひやかされたりして僕は正直困っているが、そんな時は彼女は涼しい顔だ。
何で僕と一緒だとアガらず、怖がらず、顔色も普通なんだろう。
一度テルにそれを聞いたことがある。
答えは『秋野くんと一緒だと、相手の顔がよくわからなくなるから』だそうで、そっちの方がよくわからない。
でもほんと、これから大学に行って社会に出るとなると、このままじゃまずいだろう。
え!? ずっとつきあっちゃえばいいじゃんって?
それなんだけど。実は彼女、こんな感じでも、憧れている男子がいる。
同じクラスバスケ部副主将の松谷。彼は僕と仲がいいから、テルも一緒に三人で話したり、放課後に遊びに行ったりすることも時々ある。そうやっているうちに思いが募ったらしい。明るくて気さくな愛されキャラだ。
ある日の放課後。
「あ、あのさ、秋野くん……お願いがあるんだけど」
「なんだテル、急に改まって?」
「わ、わたしね。松谷くんに……思いを伝えたい……の……」
「お! いいじゃん、幼なじみとして応援するぞ」
正直、僕の他にも打ち解けてつきあえそうな奴ができて嬉しかった。今までの肩の荷が降りたような気がする。少しさびしくはあったが。
「お、応援してくれるなら……告白するとき、一緒につきあって欲しい」
「はい?」
好きな相手に告白するとき、幼なじみを同伴させる女子がどこにいるんだ?
「や、やっぱりだめ……かな?」
「松谷はいい気しないと思うぞ」
「そ、そういうもん?」
「そういうもんだ」
「わ、わかった。じゃあ、明日松谷君のお弁当作ってきて、二人で食べて……その時に好きだって伝える」
「おう、がんばれ。松谷も喜ぶと思うぞ」
テルが決意してギュッと拳を握りしめている様子は、親離れをするわが子を見るようで嬉しくもあったが、やっぱりちょっと寂しい。
僕は、部活が始まる前、松谷に『明日はとっておきのランチにありつけるから、購買や学食には行くなよ』と援護射撃をしておいた。
で、翌日の昼休み。
テルは手提げを持って松谷の席に向かい、真っ赤な顔して話している。
松谷はうなずくと、テルと一緒に出て行った。
きっと中庭かどっかで一緒に弁当を広げるんだろう。よしよし。
購買に行ってパンでも買おうと廊下に出たら、何者かに首に腕を回され、ホールドされた。松谷だ。
「秋野、お前ちょっと来い」
ホールドされたまま階段を降り、中庭に出た。
奥の方のベンチにテルがうつむいて座っている。
遠目に見ても、顔は真っ赤っかだ。
脇には、ランチクロスに包まれた弁当箱らしきものが……三つ!?
松谷か彼女の隣りに僕を座らせる。
「秋野お前、テルに俺と二人で弁当食べろって言ったそうだな?」
「……ああ、こいつ、松谷と二人で話したいって言ってたから」
「じゃあ、何で弁当を三つも作ってきたんだ?」
「……さあ?」
「あ、秋野くん、ごめん……やっぱ、一人じゃムリ」
「ということだ。テルが何を話したいかはわからんが、お前もつきあえ」
ということで、結局、三人で弁当を食べることになった。
これじゃ、いつもと変わらない。
弁当を平らげると、松谷は購買に走っていき、緑茶のペットボトルを三つ抱えてきた。
至近距離からテルと僕に放り投げる。
テルは何とかキャッチして彼に『ありがと』と礼を言う。
「テルさ、さっき俺と二人で話してたときは顔を見るのもしんどそうだったのに、何でとなりに秋野が隣にいると平気なんだよ?」
テルは、ペットボトルのキャップを開ける動作を止め、うつむく。
そして。
意を決して話始めた。意を決したわりにはボソボソ声だったが。
「秋野くんが隣にいると、なんだか眩しく照らされて、一緒にいる人の顔が見えなくなる……だから、話しやすくなる」
うーーん、前にもテルから同じようなことを聞いたけど、いったいどういうことだ?
松谷が飲みかけていた緑茶を吹いた。
「ブッ! ブゥアッハッハッハー! そういことかよ・・・やっぱお前ら、最強のカップルだよ!」
何がバスケ部の副主将のツボにハマったのよくかわからない。
テルは、真っ赤な顔をしてうつむいた。
いきなり、松谷が歌い出す。
♪あーきのゆーうーひーにー、
てーるうやーまーもーみいじー♪
ずいぶん音痴だが、こんな所でよく平気で歌うもんだ。
「お前ら、名前そのまんまじゃん」
そう言えば。
僕は、秋野優陽。テルは、照山もみじ。
「おまえら、脇目も振らず、ずっといつまでもつきあっていろ」
……僕は構わないが、これじゃあ、テルの気持ちは……
「わ、わたしはそれでいい……それがいい、よ」
松谷が僕の肩をポンポン叩く。こいつ、本当にいいヤツだ。
「あ。秋野くん、顔……赤いよ」
テルに指摘されるとは思ってもいなかった。
「あのさ、たかが先生にプリントもらいにいくだけだろ」
「だ、だめ……緊張する」
「そろそろ、そいうのは一人でできないとなあ。これからどうすんだよ?」
幼なじみのテルは、超がつく、アガリ症で対人恐怖症で、赤面症だ。
幼稚園のころから誰かと一緒に話したり遊んだりする時は必ずつきあわされた。
僕たちの親や先生はそれを知っているから、行事とかでグループ分けする時なんか、いつもテルと一緒の組に振り分けられた。
彼女は人と面と向かって喋ったり、人前に出ると、真っ赤になってうつむいてしまう。
小学校、中学校、高校もずっとそんな感じ。
テルは頭はいいからもっと偏差値高い高校を受験できたのに、一人になるのが不安だとかで僕と同じ学校を選んだ。
周りの連中によくひやかされたりして僕は正直困っているが、そんな時は彼女は涼しい顔だ。
何で僕と一緒だとアガらず、怖がらず、顔色も普通なんだろう。
一度テルにそれを聞いたことがある。
答えは『秋野くんと一緒だと、相手の顔がよくわからなくなるから』だそうで、そっちの方がよくわからない。
でもほんと、これから大学に行って社会に出るとなると、このままじゃまずいだろう。
え!? ずっとつきあっちゃえばいいじゃんって?
それなんだけど。実は彼女、こんな感じでも、憧れている男子がいる。
同じクラスバスケ部副主将の松谷。彼は僕と仲がいいから、テルも一緒に三人で話したり、放課後に遊びに行ったりすることも時々ある。そうやっているうちに思いが募ったらしい。明るくて気さくな愛されキャラだ。
ある日の放課後。
「あ、あのさ、秋野くん……お願いがあるんだけど」
「なんだテル、急に改まって?」
「わ、わたしね。松谷くんに……思いを伝えたい……の……」
「お! いいじゃん、幼なじみとして応援するぞ」
正直、僕の他にも打ち解けてつきあえそうな奴ができて嬉しかった。今までの肩の荷が降りたような気がする。少しさびしくはあったが。
「お、応援してくれるなら……告白するとき、一緒につきあって欲しい」
「はい?」
好きな相手に告白するとき、幼なじみを同伴させる女子がどこにいるんだ?
「や、やっぱりだめ……かな?」
「松谷はいい気しないと思うぞ」
「そ、そういうもん?」
「そういうもんだ」
「わ、わかった。じゃあ、明日松谷君のお弁当作ってきて、二人で食べて……その時に好きだって伝える」
「おう、がんばれ。松谷も喜ぶと思うぞ」
テルが決意してギュッと拳を握りしめている様子は、親離れをするわが子を見るようで嬉しくもあったが、やっぱりちょっと寂しい。
僕は、部活が始まる前、松谷に『明日はとっておきのランチにありつけるから、購買や学食には行くなよ』と援護射撃をしておいた。
で、翌日の昼休み。
テルは手提げを持って松谷の席に向かい、真っ赤な顔して話している。
松谷はうなずくと、テルと一緒に出て行った。
きっと中庭かどっかで一緒に弁当を広げるんだろう。よしよし。
購買に行ってパンでも買おうと廊下に出たら、何者かに首に腕を回され、ホールドされた。松谷だ。
「秋野、お前ちょっと来い」
ホールドされたまま階段を降り、中庭に出た。
奥の方のベンチにテルがうつむいて座っている。
遠目に見ても、顔は真っ赤っかだ。
脇には、ランチクロスに包まれた弁当箱らしきものが……三つ!?
松谷か彼女の隣りに僕を座らせる。
「秋野お前、テルに俺と二人で弁当食べろって言ったそうだな?」
「……ああ、こいつ、松谷と二人で話したいって言ってたから」
「じゃあ、何で弁当を三つも作ってきたんだ?」
「……さあ?」
「あ、秋野くん、ごめん……やっぱ、一人じゃムリ」
「ということだ。テルが何を話したいかはわからんが、お前もつきあえ」
ということで、結局、三人で弁当を食べることになった。
これじゃ、いつもと変わらない。
弁当を平らげると、松谷は購買に走っていき、緑茶のペットボトルを三つ抱えてきた。
至近距離からテルと僕に放り投げる。
テルは何とかキャッチして彼に『ありがと』と礼を言う。
「テルさ、さっき俺と二人で話してたときは顔を見るのもしんどそうだったのに、何でとなりに秋野が隣にいると平気なんだよ?」
テルは、ペットボトルのキャップを開ける動作を止め、うつむく。
そして。
意を決して話始めた。意を決したわりにはボソボソ声だったが。
「秋野くんが隣にいると、なんだか眩しく照らされて、一緒にいる人の顔が見えなくなる……だから、話しやすくなる」
うーーん、前にもテルから同じようなことを聞いたけど、いったいどういうことだ?
松谷が飲みかけていた緑茶を吹いた。
「ブッ! ブゥアッハッハッハー! そういことかよ・・・やっぱお前ら、最強のカップルだよ!」
何がバスケ部の副主将のツボにハマったのよくかわからない。
テルは、真っ赤な顔をしてうつむいた。
いきなり、松谷が歌い出す。
♪あーきのゆーうーひーにー、
てーるうやーまーもーみいじー♪
ずいぶん音痴だが、こんな所でよく平気で歌うもんだ。
「お前ら、名前そのまんまじゃん」
そう言えば。
僕は、秋野優陽。テルは、照山もみじ。
「おまえら、脇目も振らず、ずっといつまでもつきあっていろ」
……僕は構わないが、これじゃあ、テルの気持ちは……
「わ、わたしはそれでいい……それがいい、よ」
松谷が僕の肩をポンポン叩く。こいつ、本当にいいヤツだ。
「あ。秋野くん、顔……赤いよ」
テルに指摘されるとは思ってもいなかった。