昭和の江戸っ子かよ
文字数 1,303文字
「あっ。」
「あっ!」
銭湯の暖簾をくぐって表に出た所で彼女と鉢合わせた。
近所の幼なじみのユキだ。
「ススムも銭湯来たんだ。」
「ああ、ほんと困るよなあ。」
家の近くで道路工事をやっていて、間違って上水道に穴をあけちゃったらしく、今懸命に復旧工事をしている。
「今日中に水、出るのかな。」
「早く直らないとやばいよね。トイレとかトイレとか。」
というわけで、久しぶりに銭湯に来た帰り。
ユキはこれから入るところ。
じゃあ、また明日学校で、と手を振って家に向かう。
「おーい!」
暖簾の下で彼女が僕を呼んでいる。
「なんだよ?」
「・・・あのさ、せっかくだから、『・・・ごっこ』やらない?」
「何ごっこだって?」
「いいからいいから。アタシがお風呂代だすから、も一回入ろう!」
なんだかよくわからないけど、ユキの言うがままに再び銭湯の暖簾をくぐり、彼女が券売機で買った入浴券を渡され、男湯に向かった。
「ひとつだけ、お願いを聞いてくれる?いいかな?」
「?」
なんか、妙なお願いをされた。
『いいかな?』と同意を求められたが、選択の余地はない。ユキは自分の思い通りにならないと、後々まで根に持つ性格なのだ。
ボクは再び服を脱ぐ。彼女も今、同じことをやっているんだろうか?
再び洗い場で体を洗う。彼女も今、同じことをやっているんだろうか?
湯舟に浸かる。さっき長湯をしたばかりなので、湯の中で段になっている所に腰かけ半身浴状態にした。
彼女は今、どっぷりと湯に浸かっているんだろうか?
壁に架かっている時計を見る。
なかなか針が進まない。
サウナに入って時間をつぶそうかとも思ったけど、今それやると死ぬ。
浴槽に腰かけなおし、足湯状態にする。
約束の時間だ。
ボクは持てる限りの勇気をふり絞る。
「おーい、そろそろ上がるぞー。」
入浴中の爺さん、子供がボクを見る。恥ずかしい。
ややエコーがかかって、壁の向こうの女湯から返事が返ってきた。
「あと五分待ってー!」
さらに入浴者の注目が集まり、恥ずかしさが一層強まる。
でも、壁の向こうに彼女が存在することが、リアルに感じられた。
壁の隔たりが残念だ。
ボクは目をつぶる。
見るんじゃない。感じるんだ。
「おまたせー、上がるわよー!」
妄想のピークに達した時、再び壁の向こうから声が響いた。
「おう、ずいぶんおせーなー。」
彼女のお願いでは、このセリフまでが『ごっこ』のセットらしい。
ノボセ気味でフラフラしながら男湯を出た。
服を来て広間に行くと、彼女がニコニコしながら待っていた。
「ありがと。楽しかったね。」
「えー、無茶苦茶ハズカシかったけど。」
上気してピカピカ光る彼女の頬っぺたにドキドキした。
「赤と白、どっちがいい?」
「?」
「はい、ご褒美。」
彼女は両手を差し出す。
左右それぞれの手には赤城しぐれの赤と白のカップ。
ボクは練乳ホワイトを選んだ。
ベンチ席に並んで食べる。
お風呂のノボセは治ってきたが、別の意味でノボセた。
銭湯を出て、途中まで一緒に帰る。
次の曲がり角でボクは右に曲がり、ユキは左に曲がる。
「じゃあな。」
「またね・・・夫婦ごっこ、楽しかった。」
「え⁉」
そう言って、街灯の下で笑う彼女の歯と唇は、イチゴのしぐれで、淡くピンク色に染まっていた。
「あっ!」
銭湯の暖簾をくぐって表に出た所で彼女と鉢合わせた。
近所の幼なじみのユキだ。
「ススムも銭湯来たんだ。」
「ああ、ほんと困るよなあ。」
家の近くで道路工事をやっていて、間違って上水道に穴をあけちゃったらしく、今懸命に復旧工事をしている。
「今日中に水、出るのかな。」
「早く直らないとやばいよね。トイレとかトイレとか。」
というわけで、久しぶりに銭湯に来た帰り。
ユキはこれから入るところ。
じゃあ、また明日学校で、と手を振って家に向かう。
「おーい!」
暖簾の下で彼女が僕を呼んでいる。
「なんだよ?」
「・・・あのさ、せっかくだから、『・・・ごっこ』やらない?」
「何ごっこだって?」
「いいからいいから。アタシがお風呂代だすから、も一回入ろう!」
なんだかよくわからないけど、ユキの言うがままに再び銭湯の暖簾をくぐり、彼女が券売機で買った入浴券を渡され、男湯に向かった。
「ひとつだけ、お願いを聞いてくれる?いいかな?」
「?」
なんか、妙なお願いをされた。
『いいかな?』と同意を求められたが、選択の余地はない。ユキは自分の思い通りにならないと、後々まで根に持つ性格なのだ。
ボクは再び服を脱ぐ。彼女も今、同じことをやっているんだろうか?
再び洗い場で体を洗う。彼女も今、同じことをやっているんだろうか?
湯舟に浸かる。さっき長湯をしたばかりなので、湯の中で段になっている所に腰かけ半身浴状態にした。
彼女は今、どっぷりと湯に浸かっているんだろうか?
壁に架かっている時計を見る。
なかなか針が進まない。
サウナに入って時間をつぶそうかとも思ったけど、今それやると死ぬ。
浴槽に腰かけなおし、足湯状態にする。
約束の時間だ。
ボクは持てる限りの勇気をふり絞る。
「おーい、そろそろ上がるぞー。」
入浴中の爺さん、子供がボクを見る。恥ずかしい。
ややエコーがかかって、壁の向こうの女湯から返事が返ってきた。
「あと五分待ってー!」
さらに入浴者の注目が集まり、恥ずかしさが一層強まる。
でも、壁の向こうに彼女が存在することが、リアルに感じられた。
壁の隔たりが残念だ。
ボクは目をつぶる。
見るんじゃない。感じるんだ。
「おまたせー、上がるわよー!」
妄想のピークに達した時、再び壁の向こうから声が響いた。
「おう、ずいぶんおせーなー。」
彼女のお願いでは、このセリフまでが『ごっこ』のセットらしい。
ノボセ気味でフラフラしながら男湯を出た。
服を来て広間に行くと、彼女がニコニコしながら待っていた。
「ありがと。楽しかったね。」
「えー、無茶苦茶ハズカシかったけど。」
上気してピカピカ光る彼女の頬っぺたにドキドキした。
「赤と白、どっちがいい?」
「?」
「はい、ご褒美。」
彼女は両手を差し出す。
左右それぞれの手には赤城しぐれの赤と白のカップ。
ボクは練乳ホワイトを選んだ。
ベンチ席に並んで食べる。
お風呂のノボセは治ってきたが、別の意味でノボセた。
銭湯を出て、途中まで一緒に帰る。
次の曲がり角でボクは右に曲がり、ユキは左に曲がる。
「じゃあな。」
「またね・・・夫婦ごっこ、楽しかった。」
「え⁉」
そう言って、街灯の下で笑う彼女の歯と唇は、イチゴのしぐれで、淡くピンク色に染まっていた。