第40話 コロナだったのかしら…

文字数 1,028文字

 六月半ば過ぎに、埼玉はツレアイの実家へ、ぼくは三泊四日していた。新幹線の道中、車内で、席はだいぶ離れていたが、始終咳をしていた赤ちゃんの声が聞こえた。それは激しく、嘔吐しかかっているほどで、そのたびに赤ちゃん自身、苦しがって、また火がついたように泣いていたのだった。
 約一時間以上は、ずっと泣き通しだった。
 喫煙室に向かう途中、なにげなくその親子を見ると、お母さんは疲れ果てたように目をつむって座席にもたれていた。赤ちゃんはその胸の中で激しく泣き続け…
 大変だなぁ、と思った。他の乗客から、文句をいわれないでよかったと思った。

 そして埼玉の家では、ぼくは冷蔵庫にあったメロンを切り、義父母に食べてもらっていた時だ。気を利かせてくれて、食べかけのメロンを、ぼくはさしだされた。
 躊躇した。あきらかに、「濃厚接触」になるからだ。だがぼくは、ことわるのもイヤラシイと思えて、ありがとうございますと食べてしまった。
 微熱が出たのは、埼玉から帰ってきて四日後だった。咳も出るし、肺の辺りが重苦しい。万が一のために、家でもマスクをつけ、ツレアイと接した。
 正確には忘れたが、それから二、三日後に熱はひいた。37度ちょっとだったけれど、平熱が低いので、ちょっと身体がだるかった。だが、咳と胸の重みのようなものはずっと続いた。
 熱は戻ったが、身体のバテさが気になった。妙に疲れやすく、ちょうど猛烈に暑い日々だったから、そのせいか、とも思った。埼玉でやたら汗かいて掃除もしたし、その疲れのせいかとも思った。

 やっと、約一ヵ月半かかったが、昨日、身体が回復したように思えた。で、熱のないのを確認して、銭湯へ久しぶりに出掛けたのだった。

 コロナだったのかなぁ、と思う。としたら、自分はどうするべきだったのか。検査をしたところで、陽性だったとしても、結局同じように生活していただろう。すなわちマスクをつけ、外で他人と近い距離にいた時、絶対に咳をしない。そこら辺は、しっかりできる。くしゃみもしないし、家では自分の部屋にこもる── 陰性であれ陽性であれ、ぼくは同じことをしていただろう。

 ツレアイも元気だし、義父母もお変わりなく、元気である。ということは、どういうことか。コロナじゃなかったのかしら…。
 正直、ちょっとビビッていた時もあったが、いまや全くバテず、暑いなかでもやたら動きたい、歩きたい衝動にかられる。
 よかった、よかった(?)
 そして日常は、特に何も変わっていない。
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